全 情 報

ID番号 00042
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日中旅行社事件
争点
事案概要  日中友好の増進のため訪中友好使節団の旅行斡旋を目的とした会社の従業員らが、営業所閉鎖を理由に解雇されたのに対し、右閉鎖は偽装であり、解雇は従業員らの思想、信条を真の理由としており無効であるとして地位保全等求めた仮処分申請事件。(申請認容)
参照法条 日本国憲法14条
労働基準法3条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
裁判年月日 1969年12月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ヨ) 1874 
裁判結果
出典 労働民例集20巻6号1806頁/時報599号90頁/タイムズ243号143頁
審級関係
評釈論文 山口俊夫・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕34頁/秋田成就・判例タイムズ247号100頁/萩沢清彦・判例評論142号25頁/尾吹善人・昭45重判解説21頁
判決理由  労基法三条の規定は憲法一四条の定める法の下の平等の原理を私人間の関係としての労働関係に適用したもので、そこに規定された信条は憲法一四条所定の信条と同一で政治的意見を含むものであるから、使用者は労働者の政治的意見を理由として差別的取扱をしてはならないものと解すべきである。
 (中 略)
 その事業が特定のイデオロギーと本質的に不可分であり、その承認、支持を存立の条件とし、しかも労働者に対してそのイデオロギーの承認、支持を求めることが事業の本質からみて客観的に妥当である場合に限って、その存在を認められているものと解すべきである。そしてそれはあくまで事業目的とイデオロギーとの本質的な不可分性にその特徴を求められるべきもので、例えば政党や宗教団体または特定の宗教的政治的イデオロギーの宣伝、布教を目的とする事業等にその例を見られるのであって、イデオロギーと事業目的との関連性は認められるが、それが本質的に不可分でない事業についてはそのイデオロギーを以て雇用契約の要素としてはならないものというべきである。そしてイデオロギーの承認、支持を存立の条件とする事業において労働者に対してもその承認、支持を求めるものである以上、それは前記のとおり憲法一四条、労基法三条の例外をなすものであるところから、労働者の右資格要件は明確にすべきものであり、個別的雇用契約だけではなく労働協約か少くとも就業規則中の労働条件を定めた部分にこれを明記しなければならないものと解する。これを本件についてみるに、前記(一)で認定したとおり、会社は日中友好を目的とし、しかも特殊な日中関係においてその交流を実現するためには政治三原則、貿易三原則、政経不可分の原則を承認し共同声明を支持して日本共産党および分裂後のA協会との関係を断つべきであるとする政治的イデオロギーを承認、支持するもので、また右承認、支持をその存立の条件としているものと解することができるが、ただ右イデオロギーの承認、支持が事業の目的と本質的に不可分であるものとは認められない。
 (中 略)
 申請人らが会社のイデオロギーと相反するイデオロギーを有する結果となったとしても、そのことだけで申請人らを解雇することは許されないものというべきである。
 (中 略)
 次に被申請人は、仮に申請人らのイデオロギーが会社の存立の条件となっているイデオロギーと相反しているだけでは同人らを解雇できないとしても、同人らには右イデオロギーに基づく具体的な行動がありその行動によって会社の存立に明白かつ現在の危害を及ぼしたので同人らを解雇したものであるから、右解雇は有効である旨主張するので判断するに、(中 略)。
 被申請人が申請人らの日本共産党およびA協会所属の事実によって会社の存立に具体的危険が発生したとの事実を前提とする主張はこれを認めることができない。
 (中 略)
 以上、被申請人の抗弁はすべて理由がなく、申請人らの主張について既に認定したところによると、会社が申請人らに対してなした本件解雇は同人らの政治的信条を理由とするもので無効というべきである。