全 情 報

ID番号 00070
事件名 時間外手当等請求事件
いわゆる事件名 牡丹湯事件
争点
事案概要  賃金月額には時間外勤務に対する割増賃金も含め約定されているとして時間外勤務に対し別に割増賃金を支払われなかった銭湯従業員が、右約定は法定労働時間をこえる労働時間を定めるに等しく超過部分が無効となるが、超過部分への割増賃金支払義務は生ずるとしてその支払を求めた事例。(請求額減額の上認容)
参照法条 労働基準法24条,33条,35条,36条,37条1
労働基準法項,40条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 適用事業 / 事業の概念
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 労基法違反の労働時間と賃金額
賃金(民事) / 割増賃金 / 違法な時間外労働と割増賃金
裁判年月日 1970年1月29日
裁判所名 神戸地姫路支
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ワ) 128 
裁判結果
出典 労働民例集21巻1号93頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労基法の基本原則―適用事業―事業の概念〕
 被告経営の浴場は、その業務の性質、態様からみて、労働基準法(以下単に法ともいう。)八条一四号に該当する事実と解せられるので、被告の被用者である原告の労働時間は、法四〇条、法施行規則二七条一項により、一日につき、九時間を限度としてその約定をなすべく、また休日については、法三五条により、週一回以上被用者に与えるべきことがそれぞれ法定されているところ、前記認定のとおり原告の労働時間は一二時間三〇分、休日は月三日の約定であるから、法三三条、三六条所定の手続を経たものでない限り(右手続が経由されていないことは弁論の全趣旨により認められる。)労働時間の約定は法四〇条、法施行規則二七条一項に、休日の約定は法三五条にそれぞれ違反するものであって、法一三条により、労働時間を一日九時間、休日を一週間につき一回とする内容に修正されるものと解すべきである。
 〔賃金―賃金請求権の発生―労基法違反の労働時間と賃金額〕
 一般に賃金は労働時間のみならず、労働の性質、種類、密度等の諸要素を考慮して決定されるので、一概に労働時間のみに対応して定められているとはいえない。したがって、労働の性質とか契約の趣旨等から時間給であることが明らかな場合は格別、それ以外は、労働時間が短縮されたとしても、賃金の部分については影響がないものと解するのが相当である。そこでこれを本件についてみるのに、原告の賃金は時間給ではなく月給であり、賃金額の決定に際しては、前記のごとく必ずしも労働時間が重要な要素となされていない事実に鑑みると、賃金額は、労働時間が九時間に修正されるのに比例して、減額されるものではないと云うべきである。そうすると原、被告間の契約は、労働時間を一日九時間、賃金月額は前記の金額(労働時間の短縮により減額されないもとの金額)とする契約として処理さるべきものである。
 〔賃金―割増賃金―違法な時間外労働と割増賃金〕
 原告が現実に稼働した時間のうち、法定の右九時間を超える三時間三〇分の部分は時間外労働となり、また午后一〇時以后の三時間三〇分の部分は深夜労働ということになる。右時間外労働および深夜労働は、法三三条、三六条所定の手続を経由していない違法な労働であるが、適法な時間外および深夜の各労働について法三七条一項に基づき、使用者に割増賃金の支払義務が存する以上、違法な時間外および深夜の各労働についても、より一層強い理由でその支払義務があるものというべく、したがって法三七条一項はかかる場合の労働に対しても割増賃金の支払義務を定めた法意であると解するのが相当である。