全 情 報

ID番号 00080
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本放送協会事件
争点
事案概要  被申請人と回数出演契約を締結していた芸能員たる申請人が、技能低下を理由に契約の更新を拒絶されたので、右更新拒絶は実質的に解雇であり且つ不当労働行為若しくは解雇権の濫用が存すると主張して地位保全と賃金支払の仮処分を求めた事例。(却下)
参照法条 労働基準法21条
民法1条3項,629条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 演奏楽団員
裁判年月日 1966年8月8日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和39年 (ヨ) 292 
裁判結果
出典 労働民例集17巻4号927頁
審級関係
評釈論文
判決理由  しかし、他面、回数出演契約においても、芸能員は契約に定められた年間の出演回数だけは出演できる保障を受ける反面、被申請人から出演を要請された場合にはこれに応ずる義務が課せられていて、いつでも被申請人の出演要請に応じうるよう待機せねばならず、他社出演は事実上制限されており、申請人の場合年間一六〇回の出演契約であつて、被申請人以外から収入を得るとしてもいわゆるアルバイト程度のものであり、この程度のものは専属出演契約のもとでも許されていたものである。さらに、各種出演契約の期限は一応一年間と定められてはいるが、病気その他特別の事情がない限り期間満了とともに契約は更新されるのが原則(申請人の場合昭和二四年から本件解約告知まで一三回更新)であり、契約料、出演料については各出演契約によつてその算出方法が異るが、その額も前者に比し著しく低額でなく、また支給最低額の保障(回数出演契約においては出演回数を保障)がなされていて生活給的要素を包含していることは否定しえない。
 以上の事実を綜合判断すると、被申請人と申請人ら芸能員間の放送出演契約はその契約形態の変遷にかかわらず、被申請人が放送事業遂行上必要とする芸術的労働力を確保する手段であつて、芸能員は放送事業の組織の一部を組成するものであり、その意味においてその提供する芸術的労働は一般職員のそれと異なるところはなく、被申請人と芸能員間にはいわゆる使用従属関係を認めることができるというべく、申請人は労働組合法にいう労働者と認めるのが相当である。
 被申請人が芸能員に対し各種労働法上の保護を剥奪していること、税法上の考慮から芸能員の所得が事業所得として課税されていること等から芸能員の労働者たる地位を否定するのは本末転倒の議論である。