全 情 報

ID番号 00110
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 クラブ小野事件
争点
事案概要  クラブ専属のピアノ奏者として期間一年の演奏契約を結んだ者が、演奏技量の不足、欠勤などを理由に契約期間途中で契約を解除されたのに対し、右契約の解除は解雇であり、しかも解雇権の濫用にあたり無効であるとして契約期間満了までの賃金の支払を求めた事例。(一部認容)
参照法条 労働基準法9条,10条
民法1条3項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 演奏楽団員
解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
裁判年月日 1984年9月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ワ) 8883 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報1213号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労基法の基本原則―労働者―演奏楽団員〕
 以上の認定事実によれば、原告は、被告経営のA店内において、被告指定の時間、ピアノ演奏の業務に従事すべき義務を負っていることはいうまでもなく、被告の定めた演奏業務の遂行にあたっては、被告の一般的指揮監督下にあり、また、演奏報酬は演奏という労働自体の対価としての性質を有するものであって、しかも、原告はこれを主たる収入源としてその生計をたてていることなどから、被告と原告との間には、いわゆる使用従属関係があったものと解すべきであり、本件演奏契約は労働契約であると見るのが相当である。
 〔解雇―解雇事由―職務能力・技量〕
 右認定の事実に加えて前掲二1の事実を総合すれば、原告の演奏曲目や技量等にAの営業内容との対比上全く問題がなかった訳ではなく、また、休暇取得の方法等に不都合な点があったにしても、前者については昭和五八年二月から原告の演奏時間を短縮し、かつ報酬を半減することにより一応解決していて、その後も原告を解雇しなければならないほどその演奏技量に問題があったことを窺わせるような証拠はなく、後者についても原告がB店長に謝罪して解消しているのであり、また、被告は、原告休暇中の演奏代行者の演奏技量等について批難するが、前記(二)(4)のとおり当該演奏者を断わる等対抗措置を何等とっていないし、原告が右演奏代行者を選任したことについて原告に対し何等苦情を言っていないことなどからすると、右演奏代行者の演奏技量が劣っていたにしても、格別問題とされる程のものとは認識されていなかったことが窺われ、さらに、クラブ「C」の店長との立話は、前記(二)(4)の事情からして全く解雇の理由とはなりえないものである。却って、前掲二1の事実及び弁論の全趣旨を総合すると、B店長が原告に対し本件解雇通告をしたのは、原告が「C」の店長と立話をしたことについて右Bが原告を叱責したのに対し、原告がこれに反発したことに端を発し、原告がBの意に副わない言動をしたことに主たる動機があったことが窺われる。
 以上のことからすると、解雇が労働者からその職を奪い、本人の生活を危機に瀕させる重大事であることに鑑みれば、具体的理由も示されず、突然なされた本件解雇には未だ解雇についての正当な事由があるとはいい難く、したがって、本件解雇は解雇権の濫用として無効であるといわねばならない。