全 情 報

ID番号 00121
事件名 地位保全等仮処分命令申請事件
いわゆる事件名 新甲南鋼材工業事件
争点
事案概要  下請業者から元請に派遣された労働者が、時間外労働の割増賃金等についての抗議の意味で無断欠勤したこと等を理由として懲戒解雇されたので、元請に対して、地位保全、賃金仮払の仮処分を申請した事例。(申請認容)
参照法条 労働基準法9条,89条1項9号
民法1条3項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 委任・請負と労働契約
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
裁判年月日 1972年8月1日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ヨ) 339 
裁判結果 認容(確定)
出典 時報687号96頁
審級関係
評釈論文 山本吉人・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕18頁
判決理由  〔労基法の基本原則―労働者―委任・請負と労働契約〕
 Aは昭和三七年頃から昭和四四、五年頃まで主として会社の営繕関係の仕事を請負って会社と関係を持っていたが、会社が労働力の募集が思うにまかせなくなるとともに、人づてに人夫等を集めやすいAなどに労働者のあっせんを依頼するようになり、Aもその後は特定の仕事の請負契約を結ぶようなこともなく、もっぱら会社に労働者をあっせんするようになった。そして会社の求めに応じて常時おおよそ六ないし八名の労働者を提供していた。
 4、そうして、会社は右のようにしてAから提供された労働者につき、会社の設備、機械、資材を使用させ、会社のいわゆる本工、臨時工とともに組を組織して同一作業場において共同作業を行わせるなど、その生産工程に組み込み、さらに独自のタイムカードを作成して右労働者の出欠をチェックし、職種の態様に従った配置や時間外労働の命令等もすべて会社の指示に基づいて行われていた。その反面、Aはもとより何らの企業的独立性を有せず、Aの妻Bが週に一回ぐらい会社に出向いて出勤の様子をみるようなことをするほか右提供した労働者に対して指揮監督することもなかった。
 5、これに対して、会社はAに対して、一人一日につき当初は三、三〇〇円、のちに三、五〇〇円を基本として、それに時間外労働をした場合には法定の割増賃金を加えて、月二回に分けて一括支払いをしていた。そうして会社は、Aにおいては右労働者に対して会社から支払われた金員から前記のとおり一人一日三、〇〇〇円、のちには三、一〇〇円あて支払い、その差額は手数料としてAないしその妻Bが受領することを認容していた。
 右事実によれば、債権者とAとの間に形式的には雇用契約が締結されたものと認められるのであるが、右契約はもっぱらAが会社に労働者を供給し(いわゆる「口入れ」)、その賃金から中間搾取する目的のためにのみ、その手段として結ばれたものであるにすぎず、なんら実体のないものというべきである。
 そうして、債権者の現実の労務の提供および稼働の態様を直視すると、会社は債権者をその企業機構の一構成要素として完全にその支配下におさめ、債権者は会社に対し従属関係にたつものであって、債権者が右のような事実関係のもとで、日々労務を提供し、会社がこれを受領している限り、両者の間には少なくとも暗黙のうちに雇用契約関係が成立しているものと認めるのが相当である。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の限界〕
 右事実に基づき本件解雇の当否について検討するに、まず右1の事実については、会社就業規則の規定にてらし、六日間の無断欠勤のみでただちに債権者を懲戒解雇することができないことは明らかである。つぎに同2の事実については、債権者発言は、その措辞自体乱暴であり、いささか穏当を欠くきらいがないではないけれども、債権者本人尋問の結果によると、債権者の発言に対し、Cも、「この馬鹿野郎、なんでそんなことお前の力でできるんや。」などとやりかえし、結果会談は物分かれになったことが認められるのであって、双方ともかなり興奮し一時の感情にまかせてなした口論の域をでないものと認められる。
 そうだとすると、右事実は一つ一つを検討してもまたこれを合せ考えても会社がその懲戒権を行使して債権者を職場から排除しなければならないほどの重大な秩序破壊行為とはとおてい認められない。また、通常解雇の意思表示も、たとえ、会社が適正な労働量の維持と規律を保持し不良労働力を排除するために解雇の自由をもつとしても、社会通念に照らし、いまだやむを得ないものとして合理的理由をもつにいたるとは認められず、解雇権を濫用したものというべきである。