全 情 報

ID番号 00123
事件名 従業員地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 船井電機・徳島船井電機事件
争点
事案概要  会社解散を理由として解雇された労働者らが、会社と会社の経営を実質的に支配している親会社に対して、従業員としての地位保全および賃金仮払の仮処分を申請した事例。(申請一部認容、一部却下)
参照法条 労働基準法10条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社
裁判年月日 1975年7月23日
裁判所名 徳島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ヨ) 147 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働民例集26巻4号580頁
審級関係
評釈論文 古西信夫・労働判例237号22頁/今野順夫・日本労働法学会誌47号103頁/秋田成就・倒産判例百選〔別冊ジュリスト52号〕190頁/松岡浩・法学研究49巻2号93頁
判決理由  〔労基法の基本原則―使用者―法人格否認の法理と親子会社〕
 法人格の否認が許される場合として(1)法人格が全くの形がいにすぎない場合、(2)法人格が法律の適用を回避するために濫用されるがごとき場合の二つを最高裁判所昭和四四年二月二七日判決はあげており、この要件は親子会社間の雇用関係につき、法人格を否認する場合にも原則的には適用さるべきである。しかし、本件においては、親子会社のいずれかの法人格が全くの形がいに過ぎない場合とは認め難いから、法人格の濫用を理由に法人格が否認されるための要件について検討するに、(1)背後の実体である親会社が、子会社を現実的・統一的に支配しうる地位にあり、子会社とその背後にある親会社とが実質的に同一であること、(2)背後の実体である親会社が会社形態を利用するにつき違法または不当な目的を有していることを要すると解するのが相当である。そして子会社の設立それ自体は違法または不当な目的の下になされたものでなくても、子会社の解散が不当労働行為の意思でなされ、親企業も直接これに加担している場合には、解散を理由として子会社がなした従業員の解雇は、まさに会社形態を利用するにつき違法または不当な目的を有しているものというべく、(この場合形式的に考えれば、親会社は解散の自由と法人格の異別性の故にその責任を免れることができる。)このような場合には雇用関係につき、子会社の法人格は否認せられ、直接親会社との間に雇用関係の存在(法形式的には雇用契約の承継)を認めるべきである。
 これを本件についてみると、A会社は実質上B会社の一製造部門にすぎず、経済的には単一の企業体とみられるのみならず、現実的にも、同社はA会社の企業活動のすべての面にわたって統一的に支配しており、本件解散もその指導と是認とのもとに行なわれたことは前記認定のとおりであるから、前記偽装解散及び法人格否認の法理によりA会社の解散による解雇はB会社に対する関係では無効で、右解雇と同時に、同社従業員の雇用契約上の地位は、そのままB会社に承継せられたものといわねばならない。
 〔労基法の基本原則―使用者―法人格否認の法理と親子会社〕
 親会社、子会社間に経済的に単一の企業体たる実体があり、企業活動の面において親会社の子会社に対する管理支配が現実的統一的でしかも親会社が株主たる地位に基づく一般的権限を行使するにとどまらず、さらに進んで子会社の労務関係にまで積極的に関与する場合、さらには子会社の労働組合活動を壊滅させる目的で、その支配力を利用して子会社を解散させ、または同様な目的の子会社と意思を通じその影響力を行使して子会社を解散させ、それの必然的結果として子会社がその従業員を解雇したような場合に、法人格の異別性を形式的に貫ぬき親会社に子会社従業員に対する雇用契約上の使用者としての責任を問い得ないとすることは、正義、衡平の観念に反し、極めて不当であり、このような場合には、いわゆる法人格否認の法理を適用して、子会社の法人格を否認し、親会社に雇用契約上の使用者として責任を認めるのが相当である。法形式的にみれば親会社と子会社の潜在的、実質的雇用契約が子会社の解散による解雇、事業の廃止により顕在化、現実化し、子会社が清算会社として存続しているにかかわらず、子会社の法人格は否認され、子会社とその従業員間の雇用契約はそのまま親会社に承継されると解すべきである。