全 情 報

ID番号 00130
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 ブリティッシュ・エアウェイズ・ボード事件
争点
事案概要  派遣契約の解除につき、派遣社員が労働契約が存在しているとして、整理解雇につき、解雇権の濫用であるとして、各々地位の保全等を求めた仮処分事件。
参照法条 労働基準法6条,10条
職業安定法44条,64条4号
民法1条3項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 派遣労働者・社外工
労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 派遣先会社
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
裁判年月日 1979年11月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ヨ) 2354 
裁判結果 却下(控訴)
出典 労働民例集30巻6号1137頁/時報959号122頁/労経速報1034号5頁/労働判例332号28頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労基法の基本原則―労働者―派遣労働者・社外工〕
 〔労基法の基本原則―使用者―派遣先会社〕
 前記(2)のA会社整備員派遣の経緯と前記(一)のA会社整備員の就労の実態とを併せて考えると、被申請人とA会社との間の契約は請負契約ではなく、被申請人の指揮監督に服する労働者をA会社が供給する契約であったものと認められる。このような場合、労働者を供給する会社が、形式的には法人格を有していても全く実体のない存在であったり、法人格の実体を有していても供給される労働者との間に実質的な契約関係というべきものが何も存在せず、ただ形式的に労働契約の外装を作り出しているに過ぎないようなときで、むしろ労働者の供給を受ける者が労働者の採否や報酬額等を直接決定しているといえるようなときには、当該労働者とその供給を受ける者との間に直接の労働契約を締結する黙示的な意思表示がなされたものと推認できることがありうる。しかし、本件においては、前記(1)ないし(8)で認定した事実によれば、A会社は実体を有する独立した法人格であり、かつ、A会社整備員からも被申請人からも実質的な契約当事者と認められた存在であり、被申請人はA会社整備員の供給を受けるについて各個人には着目せず、単に員数として取扱っており、その採否や報酬等を決定する立場にはなかったのであるから、A会社とA会社整備員たる申請人X1、同X2及び同X3との間には、右申請人らが被申請人の技術部においてその指揮監督の下に就労し、A会社がこれに対して報酬を支払うことを内容とする契約関係(それが民法上の雇傭契約に該当するか否かは別として)が存在し、右申請人らはA会社に対する右の義務に基づいて被申請人の技術部において就労していたものと解される。
 (中 略)
 なお、《証拠略》によれば、A会社の代表取締役Bが、右申請人らほか五名のA会社整備員を被申請人に供給した件につき、職業安定法第四四条及び第六四条第四号並びに労働基準法第六条及び第一一八条第一項に該当するものとして昭和五三年一〇月一七日東京地方裁判所において有罪判決を受けたことが認められるが、そのこと自体から直ちに労働者と供給を受けた者との間に直接の労働契約が成立したこととなるわけのものではなく、単にそのことが労働者供給者と労働者との間に実質的な契約関係が何もないことを示す一つの資料となることがあるだけである。
 〔解雇―整理解雇―整理解雇の必要性〕
 被申請人が五万人を超える従業員数を有する世界的な企業であることは当事者間に争いがないところ、その日本支社において前記認定のような業務の減少があっても、被申請人全体としてみてその経営が危殆に瀕するというようなおそれのないことは明らかである。しかし、そのような場合には解雇によって業務の減少に対処することが一切許されないというのではなく、本件においては、前記1及び2の認定事実からすれば、業務の減少は被申請人にとっていかんともしがたいところであったのであり、減少した業務は当該部門内で無視できない比重を占めており、減少した業務量と削減人員数はおおむね権衡がとれていて一時的な業務の減少を口実とした人員削減とは考えられず、申請人は解雇以外の方法による人員削減の努力を尽しており、被解雇者の選択も合理的と認められ、しかも被解雇者たる申請人X4に対しても他の部門の職が提示され、同申請人の拒否の理由も主として整備員として残留することにあったのであって、同申請人を整備員のままで日本支社以外の場所へ配置転換させることは考えられないものということができ、これらの事情を総合考慮すれば、本件においてなお余剰人員を被申請人が負担すべきものとするのは不合理であって、本件解雇は権利の濫用とはならないものというべきである。