全 情 報

ID番号 00143
事件名 賃金支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 農林弘済会事件
争点
事案概要  財団法人の名称を使用して下請業者が行った従業員の募集に応じた申請人らが、下請業者の未払賃金等について財団法人に対しての支払を求める仮処分を申請した事例。(却下)
参照法条 労働基準法2章
商法23条
体系項目 労働契約(民事) / 成立
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 名板貸と賃金請求権
裁判年月日 1967年4月12日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和41年 (ヨ) 2257 
裁判結果
出典 労働民例集18巻2号331頁/タイムズ206号120頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労働契約―成立〕
 (1)債権者(4)X1、(6)X2、(13)X3、(18)X4及び(23)X5を除く、その余の債権者ら(以下甲群の債権者ともいう。)が右Aらによって設立されたB株式会社の設立以前に同人らに雇入れられたものであることは右認定の事実から明らかであるところ、《証拠》によれば、右Aらは昭和四〇年七月一九日、八月二六日及び九月一五日の三回にわたり、C新聞紙上に債務者の名義を用いて謄写印刷の従業員募集の広告をなし右債権者らの一部はこれに応募したものである、また雇入に当り、農林省庁舎の階下にあって「Y」(債務者の名称)なる看板を掲げた一室で、右債権者らとそれぞれ面接し、「Y」の肩書を付した名刺を交付して、あたかも債務者が雇入れるものであるかのような表示行為に及んだことが一応認められる。
 しかしながら、前記認定のように武智らが債務者とは下請業者としての専属契約を結び、しかも独立に謄写印刷業を営むにあたり、右債権者らを雇入れた事実に徴するときは、Aらは右債権者らと債務者との間に雇傭関係を発生させる意思があったものとは認め難く、むしろ特別の事情がない限り、自分らとの間に雇傭を成立させる意思であったものと認めるのが相当である。
 〔賃金―賃金請求権の発生―名板貸と賃金請求権〕
 ところで、労働力の取引についてもまた禁反言の法理のもとに取引安全の保護を目的とする商法二三条の適用を受けてしかるべきであるから、同条にいう取引には、営業に必要な労働者の雇入行為をも包含すると解するのが相当である。
 しかし、商法二三条の法意に鑑みると、自己の商号等を使用して営業をなすことを他人に許諾したいわゆる名板貸与者は、表現的営業主である、いわゆる名板借用者と、その外観を信頼して取引する第三者に対しては、もはや真実を主張し得ず、かえって、その信頼に対応する一定の義務を負わなければならないという一種の禁反言の法理により、信頼を保護しようとするのが名板貸与者の責任の根拠であるから、継続的契約関係である雇傭の場合においては、当初名板貸与者を営業主すなわち使用者と誤認して名板借用者との間に契約を結び、かつ労務を提供するに至った労働者といえども、営業主すなわち使用者につき悪意となった以後に給付または提供した労務に対応する賃金についてまで、同条の保護を受け得るものではないと解するのが相当である。