全 情 報

ID番号 00161
事件名 契約金請求事件
いわゆる事件名 宮崎エンジンオイル販売事件
争点
事案概要  エンジンオイルの虚偽の値上げ予定を告げて顧客に不必要なオイルを売り付け苦情を招いた行為および会社商品名で粗悪品を販売した行為を理由に、エンジンオイル販売会社が専属販売員に対して違約金契約に基づく違約金の支払を求めた事例。(一部認容)
参照法条 労働基準法16条
民法420条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 外務員
労働契約(民事) / 賠償予定
裁判年月日 1983年12月21日
裁判所名 宮崎地
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (ワ) 204 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 タイムズ538号213頁/労働判例444号66頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労基法の基本原則―労働者―外務員〕
 〔労働契約―賠償予定〕
 労基法一六条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」旨を定めている。
 これは、労働者が労働契約期間の途中で、転職、逃亡をすることを防ぐため使用者が労働者に違約金や損害賠償額の予定をさせることを認めると、経済的圧迫をおそれる労働者に不当に労働を強制し、労働者の使用者への隷属関係を強める結果を生ずることになるので、これを禁止したものである。
 したがって、同条にいう「労働契約」とは民法上の雇傭のほか委任、請負などの労務供給契約のうち、従属労働ないし労働の従属性の認められるものを指す。即ち、使用者が他人の労務ないし労働を利用すること自体を目的とし、かつ労務者の提供する労働を適宜に配置して一定の目的を達成させる指揮命令権を有し、これに従って労働の遂行がなされ労働がこれに従属している場合をいうのである。
 そして、前認定第二の(二)ないし(五)の事実に照らすと、原告と被告Yとの間の本件専属販売員契約は、形式上は原告から被告Yら専属販売員への卸売、専属販売員から学生協会員たる小、中学校教員への小売という法的構成を用い(中 略)。
 専属販売員は原告の顧客である学生協会員に対するエンジンオイルの販売、アフターサービスに従事することを職務内容とするもので、直接上司の指揮命令に服することなく遅刻早退等により報酬の減額などがないけれども、毎日ほぼ一定の時間に会社に集合してその日の行動計画に従って原告会社の指定するところで販売、アフターサービスに従事し、これに対し一定の報酬が支払われるもので、この報酬は専属販売員らの自己の裁量による販売活動による営業利益というよりは、むしろ販売、アフターサービスという労務の提供それ自体の量に応じた能率給的な対価であるとみられる。したがって、被告Yら専属販売員は原告会社との間において労働法の適用を受ける労働契約を締結したものというべきである(最判昭37・5・18民集一六巻五号一一〇八頁、最判昭51・5・6民集三〇巻四号四三七頁参照)。
 〔労働契約―賠償予定〕
 信用失墜販売行為に対する損害賠償額の予定の効力につき検討するに、労基法一六条によって禁止されるのは労働契約の不履行について損害賠償額の予定であって、それは労働契約の不履行に関する限り、その法的性質が債務不履行か不法行為であるかを問わないが、労働契約に付随し又はこれと密接不可分な関係にある事項に限られ、労働契約と無関係な事項に関する損害賠償額の予定を含まない。
 そして、前認定第二の被告Yの信用失墜販売行為のうち、エンジンオイルの過大な虚偽の値上げを告げて顧客に不必要に多量のオイルを売りつけて苦情を招いた行為は、被告Yの専属販売員としての労働提供行為であるエンジンオイルの販売方法に関する事項に該当し、これにつき損害賠償額の予定として定められた本件違約金は労基法一六条に違反し無効であるというほかない。
 しかしながら、被告Yが原告から渡されたエンジンオイルと異なる品質の粗悪品を原告会社販売の商品として売渡した行為は、同被告の専属販売員としての原告会社のエンジンオイルの販売という労務提供を逸脱したもので、同被告の故意に基づく詐欺的不法行為であって、労働契約に付随し、又はこれと密接不可分の関係にある事項に関するものとして労基法一六条によって禁止される損害賠償額の予定に該当しないと考える。けだし、このような労働者の故意に基づく詐欺的不法行為を防ぐため損害賠償額の予定をしたとしても、これにより労働者に労働を強制し、使用者への隷属関係を強めるものとはいえないからである。