全 情 報

ID番号 00189
事件名 従業員地位保全仮処分申請控訴事件
いわゆる事件名 大阪読売新聞社事件
争点
事案概要  新聞社に試用された社員が、勤務態度不良等の事情から本採用されず、試用期間延長に関する試用規則に従い一年間試用期間を延長されたが、この間の非行を理由に不適格とされ解雇されたのに対し、右解雇は無効であるとして地位保全等求めた仮処分申請事件の控訴審。(原判決変更、労働者勝訴)
参照法条 労働基準法2章,21条
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 試用期間の長さ・延長
裁判年月日 1970年7月10日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ネ) 140 
裁判結果 変更 一部認容
出典 労働民例集21巻4号1149頁/時報609号86頁
審級関係 一審/00184/大阪地/昭42. 1.27/昭和39年(ヨ)3719号
評釈論文 荒木誠之・判例評論145号31頁/三島宗彦・昭45重判解説185頁/渡辺裕・ジュリスト498号135頁/本多淳亮・判例評論146号18頁
判決理由  会社は、試用期間が満了した者については、これを不適格と認められる場合のほかは原則として社員に登用しなければならない義務あるものと解せられ、従って前記試用規則四条但書の試用の期間の延長規定は右原則に対する唯一の例外であるから、その適用は、これを首肯できるだけの合理的な事由のある場合でなければならない。
 そして、いかなる場合に右合理的理由があるかを本件で問題となっている勤務成績を理由とする場合に即して考えれば、試用期間が基本的には社員としての適格性の選考の期間であること(試用規則二条)の性質上、その期間の終了時において、(A)既に社員として不適格と認められるけれども、なお本人の爾後の態度(反省)如何によっては、登用してもよいとして即時不採用とせず、試用の状態を続けていくとき、
 (B)即時不適格と断定して企業から排除することはできないけれども、他方適格性に疑問があって、本採用して企業内に抱え込むことがためらわれる相当な事由が認められるためなお、選考の期間を必要とするとき(その場合、会社は延長期間中について不適格と断定できないときは、結局社員登用しなければならないであろう。その期間、再延長の可否についてはなお問題があるが、しばらく措く。)が考えられる。右(A)の場合は労働者に対し恩恵的に働くのであるから、その合理性は明らかであるが、(B)の場合もこれを不当とすべき理由はない。
 而して前記二で一応認められる事実によれば、控訴人についてその(一)の(1)ないし(5)の事実を問擬するときは、それが前記三の(A)の場合にあたるとまでは断定できないにしても、少くとも時間の正確を旨とすべき新聞社の発送の職務に従事すべき者として、また大勢の職場での協同作業をする者として、その適格性に疑を抱かない訳にはいかず、その採否につきなおしばらく本人の勤務態度を観察して考慮する期間が必要とされる(B)の場合にあたるとの判断には合理的な理由があり、控訴人につき試用規則四条但書を適用して試用の期間を延長したことは相当である。
 試用延長中には、試用延長前の事実のみを理由として解雇することは許されず、試用延長後新たに何らかの事実が発生し、それが(イ)それ自体で当然解雇の事由となし得るような事実である場合か、(ロ)その事実と試用延長となった事由と併せ考慮するときは、規則一二条一号にあたり企業から排除するのを相当と認められる場合であることを要すると解すべきである。何となれば(中 略)。
 試用延長の意思表示は、試用期間の満了によっては本人を不適格として不採用としない意思を表示するものであり、従って、そこには、一応解雇(不適格不採用)事由に該当する様なものがあっても、もはやそれのみを事由としては不採用とはしない意思表示を含むと解すべきであるから、何ら新たな事実の発生がないのに、試用延長前に発生し且つ延長の事由とされた事実のみに基づいて解雇することは、被傭者に一旦与えた利益を奪うこととなって禁反言の原則に照らしても許されないからである。
 (中 略)
 (6)九月一一日にも前記右(4)と同様にハトロン揚げの時間に職場に居らず、これをなさず、
 (7)九月二八日、発送部長に対し社員に登用されなかった理由を詰問するなど、反省の態度を示さなかった。
 (中 略)
 されば、被控訴人が主張する六の(6)(7)の事実とも、これを試用延長期間中に新たに生じた控訴人の不適格性を象徴する事実として評価することは相当でない。
 (中 略)
 よって、本件解雇は何ら解雇を相当とする事実が存在しないのになされたものであって無効であるといわざるを得ない。
 本件試用の延長について、被控訴人は期間を定めなかったから、特段の事情がなければそれは最長、試用規則四条に定める一カ年となるから、昭和四〇年九月一日に社員に登用されているべきであり、控訴人の現在の身分は試用ではなく、本社員であるとの解釈を立てる者もあるかも知れないが、本件解雇が無効であったとはいえ、仮処分によって裁判上その効力が停止されない間は、被控訴人において右昭和四〇年九月一日に到来すべき本社員への選考をしないでおくことが違法とはいえないと考えられるから、結局右延長された一年間の試用期間は本件解雇の日から本裁判言渡(仮処分発令)の日までその進行を停止していたものとして扱うのが相当である。