全 情 報

ID番号 00208
事件名 従業員地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 宇田タクシー事件
争点
事案概要  臨時雇用員である申請人らが申請人らを本採用とすべき協定が組合と被申請人との間で締結されたにもかかわらず、被申請人が本採用を拒否し申請人らを退職扱いしたため、地位保全と賃金支払の仮処分を求めた事例(認容)。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇
裁判年月日 1986年1月22日
裁判所名 松山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ヨ) 101 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報1184号148頁/労働判例467号46頁/労経速報1258号14頁
審級関係
評釈論文 五百蔵洋一、長谷一雄・労働法律旬報1145号51頁1986年6月10日/楢崎二郎・ジュリスト916号116~119頁1988年9月1日
判決理由  1 本採用の拒否は解雇であるが、右留保解約権に基づくものであるから、通常の解雇よりは広く認められるものである。しかし、同時に、試採用は、試採用従業員が当該企業との雇用関係の維持についての期待の下に、他企業への就職の機会を放棄したものであることを考えると、拒否が許されるためには、本採用従業員としての職業能力、業務適格性についての客観的評価に基づく合理的な理由が存在することを要するというべきである。さらに、申請人らに対する本採用拒否については、右の一般論に加えて、本件における諸事情(申請人らが臨時雇用運転者の名の下に何年間にもわたって被申請人に継続的に雇用されてきていること、本件協定の成立に至る交渉過程等)を見るときは、右合理的理由の存在の要求はますます厳しくなるものというべきである。
 ところが、《証拠略》を総合すると、申請人らの昭和五七年三月から昭和五八年四月までの平均営業収益はいずれも他従業員と比較してほぼ同等もしくはそれ以上であり、勤怠も申請人らの勤務体系に照らして考えるならば、決して不良とはいえないこと(なお、被申請人代表者の供述中にはこの認定に反するかのようにみえる部分があるが、これは右認定を左右するに足りるものではない。)、過去の試採用従業員は試用期間終了後すべて本採用従業員となっていることなどが一応認められるのであり、これに鑑みるならば、申請人らは本採用従業員としての適格性を十分有していたものということができ、被申請人が本採用を拒否する合理的理由はなかったというべきである。したがって、試用期間が終了した昭和五八年四月一九日には留保解約権は消滅し、申請人らは当然本採用従業員の地位を取得したことになる。