全 情 報

ID番号 00279
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 竹本油脂事件
争点
事案概要  研究開発部二課から営業三部への配転命令を拒否したことを理由として、就業規則に基づき懲戒解雇された従業員が、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、賃金の支払を請求した事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法2章,3章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 賃金の計算方法
裁判年月日 1973年1月10日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ワ) 2738 
裁判結果 認容
出典 タイムズ294号378頁
審級関係
評釈論文 佐伯静治・月刊労働問題186号104頁
判決理由  〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令の根拠〕
 一般に職務内容の変更は労働契約の内容の変更であるから、当該労働契約によって予め予定された範囲をこえるような著しい職務内容の変更は、使用者の一方的命令によってはなしえないというべきである。
 そしてこの場合就業規則その他により労働者が使用者に対し、あらかじめ使用者のなす職種の変更につき包括的同意を与えていると認められるときにおいても、使用者の有する職種変更権には自ら合理的限界が画さるべきであって、右の範囲をこえて使用者が職種変更を命ずることは許されないと解するのが相当であり、右合理的範囲に属するかどうかは、当該労働契約締結時の事情、従来の慣行、当該配転における新旧職務内容の差異、特に技術系統の従業員においては将来にわたる技術的な能力の維持ないし発展を著しく阻害するような職務の変更であるか等を総合的に判断して決すべきである。
 (中 略)
 以上認定の事実によれば原告は別段繊維工業化学の専門技術者として職種を指定されて被告会社に採用されたわけではなく、原告と被告会社との間の労働契約においては、原告は配転ないし転勤につき包括的同意を被告会社に与えていたものであり、しかも、本件配転先の職務内容はセールス・エンジニアとして従前の職場で培った原告の専門的知識技能を生かしうるものであり、従来の慣行にも反していないから、本件配転命令は、原告と被告会社間の労働契約上使用者に委られている職種変更権の合理的範囲内であることは明らかであり、労働契約違反の原告の主張は理由がない。
 また本件配転命令が真に業務上の必要に基づきなされたことは前記のとおりであり、原告を営業部員として選出した理由についても合理性が認められ、異例の配転でもないから人事権濫用の原告の主張も理由がない。
 〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令権の濫用〕
 以上に認定した事実に基づいて本件解雇の効力について考えるに、本件配転命令は、被告会社の業務上の必要に基づいてなされた適法有効なものであり、労働契約に違反するものでなく、権利の濫用にも、不当労働行為にも、労基法三条違反にも、当らないことは先に詳細に説示したとおりであり、原告にはこれを応諾すべき義務あること明らかである。
 従って、原告が上司から配転命令に従い直ちに新職場で就労するようにとの業務命令を受けながら、これに従わず、組合総会の決議がなされた翌日に至っても容易に去就を定めず、新職場で就労しようとしなかったことは、配転ないし業務命令に違反し、就業規則9・5・3「故なく会社の業務上の指示命令に服従せず、または業務上の秩序をみだしたとき」に該当するというべきである。
 (中 略)
 原告のした前記本件配転命令、業務命令に従わずになした四日間に亘る新職場における不就労をいかに評価すべきかの点について考えるに、原告が本件配転命令についての被告会社の意図について疑念を抱いたことに無理からぬ理由が存することは先に説示したとおりであることと、成立に争いのない乙二号証によれば、被告会社の就業規則上、無届欠勤は七日に及ぶことにより、懲戒解雇事由となっていることが認められ、原告の不就労はそれより短かいこと、被告会社が原告の右不就労自体により業務が著しく停滞したと認めるに足りる証拠が存しないこと等を併せ考えると、原告が最終的には、組合総会の決議に従うことを表明するに至った以上、いまだもって懲戒解雇に価する程悪質なものと評価することは困難である。
 被告は、原告の言動をそのまま放置したのでは、将来に悪例を残し今後の人事管理面に重大な支障をきたすことになる旨主張するが、本件では結局のところ、原告は被告会社の命令どおり配転先で働くべきこととなったわけであり、原告が人事についての協約改定の意見を有していたとしてもそのこと自体は何ら非難すべきことがらではないから、このような原告を懲戒解雇しなければ、将来の人事管理上重大な支障を来すものとは解しがたい。
 これを要するに、原告が、被告会社の配転命令ないしは業務命令に一たんは従わず新職場で就労しなかったことが、会社就業規則9・5・3に該当するとはいえ、以上の諸般の事情を考えれば直ちに懲戒解雇に処して、企業外に排除しなければならないほどに、企業秩序を乱したもので悪質な情の重いものとみることは相当でない。従って本件解雇は、就業規則9・5の懲戒解雇規定をその趣旨、目的を逸脱して不当に適用したものであって権利の濫用として無効であるといわなければならない。
 〔賃金―賃金請求権の発生―賃金の計算方法〕
 前記のとおり被告会社における昇給、ベースアップ、一時金の額は各人別に支給額が決定される査定部分が存するのであるが、もともと、原告は被告会社の責に帰すべき事由により就労を拒否された結果、査定の基礎とすべき実績およびその資料を欠いているわけであるから、右査定部分は一応従業員の平均査定率によることとし、右の査定率の範囲においては、被告会社のその旨の意思表示を俟つまでもなく、原告に対しその効力が及ぶと解するのが相当である。
 これに反する被告会社の主張は採用しない。
 従って、原告は、前記定期昇給の考課査定については平均的査定である四段階(一、五〇〇円)、成績率については平均率である一・〇とし、出勤率については一〇〇パーセントとして計算するのが相当である。