全 情 報

ID番号 00282
事件名 地位保全等仮処分申請控訴事件
いわゆる事件名 東洋鋼鈑事件
争点
事案概要  購買係から独身寮の業務への配転命令につき、権利濫用にあたり無効であり、右配転拒否を理由とする懲戒解雇も無効とした事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1974年10月28日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ネ) 2138 
裁判結果 取消 却下
出典 労働民例集25巻4・5合併号429頁/時報767号94頁
審級関係 一審/00276/横浜地/昭47. 8.24/昭和44年(ヨ)629号
評釈論文 高木紘一・労働判例213号30頁/大脇雅子・労働法律旬報875号28頁
判決理由  従業員の配置転換は、それが労働契約、労働協約、就業規則その他労働関係法令に反しない限り、人事権の行使として、原則として使用者の裁量に委ねられ、ただそれが、使用者の恣意により合理的必要がなくしてなされた場合、あるいは他の意図をもって本来考慮に入れるべきでない事項を考慮してなされた場合には、人事権を濫用したものとして、配置転換は効力を生じないものと考えるのが相当である。
 2(一)被控訴人が産後休暇を終えて就労する頃、被控訴人が以前に担当していた購買補助に関する各種の業務は、コンピューター方式の導入により消滅したことは、前認定のとおりである。従って被控訴人の原職の消滅により新たな職に配転する必要が生じたわけである。
 (中 略)
 綜合研究所では、被控訴人を、その産後休暇あけとともに配置すべき職がなかったので、昭和四四年三月頃、本社に対し全社的見地から検討して貰いたい旨を要請した。本社においても、女子従業員の職に欠員はなく、〔1〕賃金その他労働条件の低下を来さないこと、〔2〕生後一年未満の生児の母親としての被控訴人の勤務に多少でも便宜がはかれること、〔3〕会社の業務に支障を来さないこと、〔4〕他の女子従業員との振合い、の諸点を考慮した結果、寮勤務は、労働条件の低下を来さないのは勿論、事務は、被控訴人の学歴、経験、技能に照らし無理がなく、労働密度は間歇的で、比較的に時間的に自由であって、日本間等哺乳、休憩に便利な施設があり、風呂場、洗濯場等の施設を利用できること、会社の他の業務から半独立しているので、多少の遅拙があっても全般の業務に影響を及ぼさないし、他の女子従業員との振合いにも無理がないとして、寮事務の担当という職を新設して、本件配置転換を命じた。
 以上認定の事実関係のもとにおいては、本件配転命令をもって企業運営上の客観的合理性ないし必要性はないということはできない。もっとも配転先の職場においては、正社員は他におらず、その職場は寮務のうちの机上事務であるとはいえ、従来のいわゆるオフィス勤めと異り、少数の現業従業員とともに独身寮において勤務するものであり、しかも賄業務を補助することも期待されている点よりして、かかる職に配転されることは、被控訴人にとってその地位評価上不利益な配転と感じられるであらうことは推認できなくはないが、さればといって前記認定の事実のもとにおいては、本件配転を合理性のないとなすに足らないといわねばならない。
 (中 略)
 本件配転命令が被控訴人の思想信条を理由に差別的取扱いをしたものでもなければ、女性なるが故にことさらに差別したものでないことは、すでに認定したとおりである。被控訴人が控訴会社の従来の方針に反し出産後も退職しようとしないので、たまたま原職が消滅したのを奇貨として、就業規則上の保護に名をかりて、さして業務上の必要もないのに、評価上不利益な地位である新しい現業まがいの職場を創設して、独身寮の寮事務として配転させ、結局は同人の労働意欲を喪失させることにより退職の決意をさせようとしたものというのは、あくまで憶測の域を出ず、かかる事実を認めるに足る証拠はない。従って本件配転命令は、「嫌がらせ配転」であり、「いびり出し配転」であって、違法な動機に基いてなされたものであるとの被控訴人の主張は理由がない。
 (中 略)
 本件配転命令が無効でないことは前説示のとおりであるから、その無効を前提として懲戒解雇の無効を主張する被控訴人の主張は理由がない。