全 情 報

ID番号 00294
事件名 組合職員解雇無効確認等請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 矢吹町農協事件
争点
事案概要  機構改革により管理課経理係主任から資材課受渡係へ降格配転された農業協同組合職員が、配転命令の拒否等を理由として就業規則に基づき懲戒解雇されたので、解雇無効確認、賃金の支払を請求した事例。(一審 請求認容 当審 控訴認容、原判決取消、附帯控訴棄却)
参照法条 労働基準法2章,89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1976年7月28日
裁判所名 仙台高
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ネ) 222 
裁判結果 原判決取消、認容、附帯控訴棄却
出典 労働判例268号52頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔配転・出向・転籍・派遣―配転命令の根拠〕
 一般に、使用者が労働者の職場の変更を命じる配置転換を使用者の労働指揮権の内容としてなし得るかどうかは、労働協約や就業規則のほか、労働契約の内容によって決せられると解されるところ、成立に争いのない(証拠略)(誓約書)によると、被控訴人は昭和三七年一月二五日控訴人に採用されるに際して、控訴人の諸規則及び命令を守り諸事上司の指揮に従い誠実に勤務することを誓約していることが認められることに加えて、成立に争いのない(証拠略)(就業規則)には、「職員は辞令をもって職場に配置される。職名および所属の変更についても同様とする」(第一八条)という規定が見受けられること、また成立に争いのない(証拠略)(被控訴人の履歴書)によると、被控訴人は、福島県立A高等学校を昭和三二年三月に卒業し、控訴人に採用されるまで二、三の職場を経由したことが認められるが、特別の専門技能を有していたとは認め難いことなどの事情を総合すると、被控訴人と控訴人の労働契約においては、控訴人が農業協同組合法にもとづく農業協同組合として、同法および控訴人の定款(成立に争いのない《証拠略》)を定める、組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付、組合員の貯金又は定期積金の積入、組合員の事業又は生活に必要な物資の供給、組合員の生産する物資の運搬、加工、貯蔵又は販売等の広範囲の事業を行う範囲内において、被控訴人の労働の種類、態様または労働の場所の個別的な決定を控訴人に委ねる旨の合意が成立していたものと解するのが相当である。原審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)によると、被控訴人は控訴人に採用されたのち、控訴人の命に応じて経済課販売係、経済課購買係、金融課外務係、金融課保険係、管理課経理係、経済課販売係主任、管理課経理係主任とその部署を転々としてきた経過を見ても、右の判断は補強されるというべきである。してみると(証拠略)によって被控訴人が従来の管理課経理係として、総括経理、財務諸表の作成及び管理、未収金管理、購買及び販売その他事業の経理を担当する職務から、生産資材の管理と入出庫の管理、農業倉庫を除く倉庫管理の職務を内容とする資材課受渡係へと配置転換されたことが認められることも、その職務内容のみからいえば、控訴人の業務執行の必要に応じた労働指揮権すなわち人事権の範囲内にあるものと解されるのであり、他にこの判断を左右するに足りる証拠はない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―業務命令拒否・違反〕
 してみると、前示のような被控訴人の配転命令を拒否して控訴人の職務命令に従わず業務遂行の障害を与えた行為は、刑法犯に類すべき公序良俗に反する行為がありそのため職員がその名誉、品位を汚し、ひいて控訴人の業務遂行に重大な影響を及ぼした場合を典型的に指称すると解される同条五号には該当すると解し難いが、控訴人の職場の規律と秩序をないがしろにした場合として例示されている一号、二号、六号、七号等の規定の趣旨から考えて、右各号に匹敵するような規律違反や秩序を紊乱する行為を懲戒事由と定めた同条九号に該当すると解するのが相当である。そして前示のように配置転換後一旦被控訴人や労働組合側の意向をも斟酌して資材課係長に発令したのにもかかわらず、三ケ月以上も控訴人の役員や労働組合の同僚の説得を拒否してかたくなに配置転換に応ぜず、業務の引き継ぎもしないし無断欠勤等があり執務状況が悪化したという被控訴人の態度が就業規則第四九条所定の懲戒解雇事由にあたるとした控訴人の判断は止むを得ないものであったと解するのが相当である。右のような被控訴人の抗争態度に加えて、控訴人は従業員三〇名足らずの小規模な企業体であり(成立に争いのない《証拠略》等による)被控訴人の抗争が控訴人の業務遂行に及ぼす支障も大きいこと、前示のように西白河地方農業協同組合労働組合矢吹分会の統制も及ばなくなっていて、事態の収拾の手がかりも掴み難くなっていたことを考えると、懲戒解雇処分を選択するにさきだって停職処分を先行させるべきことを控訴人側に期待することは困難であると認められ、懲戒解雇といいながら本件の場合は通常見られる即時解雇と異なり予告解雇の方法がとられていることなどを考えると、控訴人のした配転命令拒否を理由とする解雇が解雇権の濫用にわたると解することはできないというべきである。