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ID番号 00299
事件名 解雇の効力停止仮処分控訴事件
いわゆる事件名 福井鉄道事件
争点
事案概要  バス運転手からタクシー運転手への配転命令を拒否した労働者を懲戒解雇に処した会社に対して、解雇の効力を仮に停止することが求められた事例。(一審 申請認容、二審 控訴棄却、申請却下)
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1978年9月29日
裁判所名 名古屋高金沢支
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ネ) 52 
裁判結果 棄却
出典 労働判例311号60頁
審級関係
評釈論文 甲田恭子・季刊労働法112号140頁
判決理由  6 前記のとおり本件配転命令は、労働条件の重要な内容を変更しようとするものであり、すなわちそれは労働契約そのものの変更の申入れと解すべきところ、これに関する労働協約の別段の定め又は規範的効力を有する慣行の存在も認められないのであるから、相手方たる被控訴人らの同意なくして、右申入れに従った労働契約変更の効力が生ずるいわれはないといわなければならない。
 もっとも、経済社会の急激な発展に伴ない、使用者たる企業は流動的な経済状勢に対応するため、既往の雇傭関係をそのままに維持することができず、時に被用者たる労働者に対し、労働契約の大巾な変更を求める必要に迫られる場合の生ずることは何人も充分予測できるところであるから、被用者もその労働契約締結の始めにおいて、すでに右事情を通常認識しているものというべきである。
 したがって本件配転命令の如く労働契約変更の申入れにあってもそれが、使用者の健全な社会的常識に基づく合理的裁量の範囲内にあると認められるかぎり、被用者においても、特段の事由なくしてこれを拒否することは信義則に反し、許されないものと解するのが相当であり、前掲就業規則五条は右の趣旨を定めたものと認められる。
 (中 略)
 A班の勤務は、Bバス班のそれに比して、労働条件が劣悪であるばかりか身分上の不安が常に伴なっていたので、勢い従業員も同所勤務を命ぜられることを恐れ、かつ、忌み嫌っていたものと推認できるから、使用者たる控訴人において同所勤務者の欠員補充の必要があるならば、地元から新たに採用してこれに充てるか、或は少くもその待遇を飛躍的に向上させ、又は身分上の不安を解消させ、或は交代期間を定めてこれを遵守するなどの措置をとり、従業員をして安心してその勤務につかせるよう配慮すべきが当然と考えられるのに、控訴人においてはこれらについて何らの考慮も払うことなく、かえって、組合活動家を特に選んで強制的に同所の勤務につかしめていたかの如くであり、本件配転命令をするに際しても、交代要員として被控訴人らよりも少くも通勤条件において適切と認められる者が多数存在したのにかかわらず、これに一顧も払わないで、むしろ勤務成績が優秀と認めたという被控訴人らを選んで、敢て前記のとおり従業員らが忌み嫌うところの勤務につかしめようとしたことは、その真意を把握するに苦しまざるを得ないところであり、ことに、経営移管問題が具体化し、近い将来に実現が見込まれ、その暁には同所勤務のタクシー運転士が他社に移籍することがほぼ確実に予想される時期において、組合の活動家であり、共産党支持者として知られている被控訴人両名に対して同所への転勤を命じたことから考えれば、本件配転命令は、所詮被控訴人らの政治的信条又は組合活動を真の理由とする差別待遇であるとの疑念を抱かざるを得ないところであり、到底合理的裁量に基づくものとは認めがたい。
 そうすると、前記認定の事情から、被控訴人らは本件配転命令を拒否する正当な事由があるというべきであるから、被控訴人らは本件配転命令に従ってA班において勤務しなければならない義務はないといわなければならない。
5 そうだとすれば、被控訴人らが右義務に違反したことを前提とする本件懲戒解雇はその余の判断をまつまでもなく、その効力を生じないものであり、したがって、他に特段の事情の認められない本件においては、被控訴人らは依然控訴人会社との間に労働契約上の権利義務を保有しているものというべきである。