全 情 報

ID番号 00334
事件名 従業員地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 ダイワ精工事件
争点
事案概要  都内の本社から富山市の系列会社への出向命令を拒否した労働者を解雇した会社に対して、従業員たる仮の地位の保全が求められた事例。(申請認容)
参照法条 労働基準法2章
民法625条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向と配転の区別
裁判年月日 1978年9月22日
裁判所名 東京地八王子支
裁判形式 決定
事件番号 昭和53年 (ヨ) 297 
裁判結果 認容
出典 時報913号115頁/労働判例307号10頁/労経速報1007号23頁
審級関係
評釈論文
判決理由  (二)いわゆる出向と称せられる社会現象は、企業の合理化系列化にともない重要性を増してきた労働問題で、出向とは必ずしも法律的に熟した概念とはいえないが、出向をもって一概に使用者の権利を第三者に譲渡するものとし、常に従業員の個別的同意を必要とするものと解することは、出向の実態にそわないもので妥当ではなく、出向元会社と出向先会社との関係、出向後の労働条件の保障いかんによっては、従業員の出向義務を肯認すべき場合があるものといわなければならないであろう。しかし他面において、就業規則、労働協約ないし確立した労働慣行等により出向の法律関係が明確にされていない状態のもとにおいては、出向が従業員の身分関係を不安定にし、労働条件に不利益を招くおそれのあることも否定できないのであって、出向をもって企業内部での配転と同一視できないことも明らかである。要するに、出向問題を扱うには、企業の要求と従業員の立場を公平に尊重する必要があるものというべく、出向命令違反による解雇の効力を判断するに当たっては、就業規則、労働協約、確立した労働慣行のうえで出向による従業員の身分関係、労働条件が十分に保障されているか否かを確認し、そのうえで企業の業務上の必要性と従業員の出向拒否理由の相当性を比較検討すべきものと考える。
 そこで本件につき前記認定の事実に照らして検討するに、会社とA会社との間には資金上、営業上密接な関係があり、人事面においても会社からA会社に対する出向に依存している面が多分にあること、出向者が会社の従業員としての身分を失わないいわゆる休職出向であり、A会社の就業規則の内容が会社の就業規則の内容と同一であって、出向者の給料が会社の基準にもとづいてA会社より支給されてることは前記のとおりであっても、右の事実によって直ちに出向者の従来の身分関係、労働条件が出向後も保障されているものとはいい難く、却って就業規則、労働協約ないし確立した労働慣行によるも、また本件出向命令自体においても、出向期間その他出向者が会社に復帰する条件並びに復帰した場合の待遇等についてなんら明らかにされていないことを考えれば、本件出向により債権者の今後の身分関係、労働条件に不測の不利益を招くおそれがあることは到底否定することができないといわざるを得ない。また就職に当っての会社の説明も、これにより会社の出向命令に応ずることが会社と債権者との間の労働契約の内容になったものと解することはできず、会社の就業規則第九条に休職事由の一として、会社の命により会社外の業務に従事するとき、との規定のあることが疎明されているが、右規定も従業員の出向義務を定めたものとは解されず、他に就業規則、労働協約、確立された労働慣行により従業員の出向義務が定められていることの疎明がないことなどを綜合すれば、本件において出向命令が会社の人事権の範囲内にあるとの会社の主張はたやすく採用することができないものというべきである。更に、本件疎明資料に照らし、本件出向が会社の業務上不可避のものであったとは認められず、債権者の出向拒否の理由がその個人的事情にもとづくものであるとはいえ、これを無視することはできないこと並びに債権者の従来の勤務成績が不良で会社に不協力であったことの疎明がないことから判断すれば、債権者が本件出向命令に応じなかったことをもって、直ちに従業員として不適格であるとし、就業規則第一六条第四号の解雇事由に該当すると認めることはできない。従って、本件解雇処分は就業規則の右規定の解釈ないし適用を誤った無効のものというべきであるから、債権者の不当労働行為の主張につき判断するまでもなく、債権者が現に会社の従業員たる地位を有するとの債権者の主張は一応理由があるものと認めることができる。