全 情 報

ID番号 00580
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 東洋合成工業事件
争点
事案概要  始業時間前に工場内の社員食堂で上司の注意に反抗して、暴力をふるったことを理由として、就業規則に基づき懲戒解雇された従業員が地位保全、賃金仮払の仮処分を申請した事例。(申請却下)
参照法条 労働基準法20条1項,89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇予告と除外認定 / 除外認定と解雇の効力
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1973年3月7日
裁判所名 千葉地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ヨ) 99 
裁判結果 却下
出典 時報714号234頁/タイムズ297号318頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―暴力・暴行・暴言〕
 申請人は、A課長に二度三度注意されてしぶしぶながらもこれに従っている事実はあるけれども、その後に続く申請人の前記所為全体を通じてみると、同課長の注意が不服でこれに暴力をもって反抗したものというほかはなく、その行為は性急かつ粗暴であるとともに、直接業務との関連がないとはいえ、始業時直前の職場内において従業員多数の面前で公然と上司に反抗した暴行事件である点で、企業秩序維持の観点からこれをみれば職務執行中の非行と殆んど選ぶところがなく、著しく職場秩序を害するものであるといわねばならない。のみならず安全性の特に要請される石油化学工場のことであり、前掲被申請人会社代表者本人尋問の結果によれば、同工場内で昭和四一年一二月ころ、従業員の遵守事項に違背した不始末とみられる火災事故がすでに発生していることを合わせ考えれば、特に被申請人会社において職場の規律、秩序が一段と重視されるべきことは当然であって、世人の多くも石油化学工場において職場の規律、秩序がつねに十分に保持されるべきことを要請し保持されているものと信じているのであるから、かような職場で上司の注意に対し暴力をもって反抗するようなことが到底許容され得ないものであることはいうまでもなく、またこのような事実が公になれば、少からず会社の名誉信用を失墜させるに至るであろうことは明らかなところであるといわねばならない。
 そうだとすると、申請人の所為は前記就業規則第二七条第三号および第九号に該当しないまでも、右各号の行為に準ずるものとして、少くとも同条第一二号の制裁事由に該当するものと解するのを相当とする。
 そして前認定の事実に照らすと、申請人がA課長の注意に納得し難いと思うのも無理からぬ事情があるとともに、同課長の言動に申請人を挑発するような点がなかったとはいえず、その他被申請人に同情すべき点がないではないが(申請人は、申請人とA課長との間に示談が成立したと主張するけれども、これを認めるに足りる疎明資料はない。)被申請人が懲戒解雇をなすに当り、前認定の如き事情を斟酌し経過を経て懲戒解雇の制裁を課すべきものとしたのはまことに相当な処置であり、申請人主張の如く情状の酌量にも欠けるところはなく、右処分が苛酷にすぎたものということはできない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒手続〕
 被申請人会社は申請人に対し、本件懲戒解雇に先立つ昭和四七年四月一八日、書面をもって本件懲戒解雇とほぼ同一理由により出勤停止および曙寮待機を命ずる旨通告していることが一応認められる。
 しかしながら、(書証・人証略)によれば、被申請人会社は、同月二〇日役員会に図って正式に申請人に対する処分を決するまで申請人に出勤を見合せて貰うことにし、口頭で同人にその旨申し入れたところ、申請人から文書にしてくれと要求され、前記書面を作成して申請人に交付したものであることが認められ、右書面にも「別に連絡するまで」と明記されているのであって、出勤停止等はあくまで最終的に制裁処分を決するまでの暫定的措置として行ったことが明らかであり、右措置をもって独立の制裁処分とみるのは相当でない。
 〔賃金―退職金―懲戒等の際の支給制限〕
 そもそも除外認定制度は、使用者が恣意的に懲戒解雇ないし即時解雇をなすことを抑制するため、かかる場合まずもって行政官庁の認定を受けるよう使用者側に義務づけたものであり、その本質は事実確認的なものであるから、除外認定を経たかどうかということと、客観的に労働基準法二〇条一項但書に該当する事由が存在するかどうかということとは別個の問題であり、除外認定を受けないで懲戒解雇した場合であっても現実にその事由が存するならば解雇の効力に消長をきたすことはないものと解される。そして、就業規則の前記規定は、その体裁からしてかかる趣旨の労働基準法の規定をそのまま要約しひきうつしたものにすぎないものとみられるのであって、進んで被申請人会社が懲戒解雇の効力を除外認定の有無にかからせることによって、その懲戒解雇権の行使に自律的制限を加えた趣旨のものとみることはできない。そうだとすると、すでに判示したように本件懲戒解雇には労働基準法二〇条一項但書の除外事由が存在する訳であるから、除外認定を経ずあるいは解雇後除外認定を否定されたからといって何らその効力を左右されないものというべきであり、申請人の主張は理由がなく採用することができない。