全 情 報

ID番号 00595
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 中島商事事件
争点
事案概要  同族会社で社長の実兄である従業員が、課長、社長に暴言を浴びせたことを理由に、諭旨退職処分に付され退職金、解雇予告手当金を支給されなかったとして、右金額の支払を請求した事例。(請求一部認容)
参照法条 労働基準法20条1項,11条
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
解雇(民事) / 解雇予告と除外認定 / 労働者の責に帰すべき事由
裁判年月日 1974年5月31日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ワ) 246 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報857号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―退職金―懲戒等の際の支給制限〕
 退職金は、その経済的性格として勤続報償的、賃金の後払的、生活保障的な性格をそれぞれ持ち、それらの要素が不可分的に混合しているものと把握することができ、労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件の明確なものは、将来その支給を受けられることが労働条件の内容となって権利化しているといえるから、この限りにおいて労働の対償性を有しており、その法律上の性質はまさに労基法一一条にいう「労働の対償」としての賃金に該ると解せられる。
 しかしながら、他面労働協約、就業規則、労働契約等によって予め退職時一定の事由の発生をもって退職金不支給或いは減額を定めること、換言すれば退職金支給についての制限規定を設けることは、それが社会的相当性の見地よりみて合理的である限り当然許されると解するのが妥当である。したがって、退職金支給の制限規定が社会的相当性を有するか否かを検討し、社会的相当性を欠く場合その限度において制限規定は無効に帰するというべきである。
 (中 略)
 就業規則二六条但書五号の「懲戒規定該当の事実が原因で退職するとき」とあるのは極めて曖昧な規定であり、文理解釈上は同規則四〇条の減給、出勤停止、降格の各事由、四一条の諭旨解雇及び懲戒解雇の各事由に該当することが原因で退社するときのすべてが包含されてしまうという不合理な結果となる。したがって、右にいう「懲戒規定該当の事実が原因で退社するとき」とは「懲戒解雇により退社するとき」の意であると解するのが退職金不支給を定める規定の解釈上合理的である。何故ならば、就業規則四一条所定の各事由があるときは原則として諭旨解雇になるのであるが、情状酌量の余地なきときのみ懲戒解雇に処するというのであるから、懲戒処分中最も重い懲戒解雇についてのみ退職金不支給を定めた趣旨であると解するのが合理的であるからである(もっとも被告会社の就業規則四一条所定の前記懲戒事由中懲戒解雇の場合に退職金不支給を是認するには社会的相当性を欠くと思われるものが多分に含まれている)。その反面、諭旨解雇は懲戒解雇より情状の軽い懲戒処分であり、それも説ゆの上自発的に退職せしめるというのであるから、これを懲戒解雇と同一視して退職金不支給の場合と規定するのは明らかに行き過ぎであり、社会的相当性の見地よりみて合理性を著しく欠くものというほかはない。されば被告会社の退職金に関する規定中諭旨解雇について退職金不支給を定めた部分は無効というべきである。そうとすれば、被告会社は諭旨退職者に対しては少くとも自己都合による退職者と同率の退職金を支給すべき義務があると解するのが相当である。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―暴力・暴行・暴言〕
 被告会社がいわゆる同族会社であるところにより、原告がA一族の一員であるとの意識が強く、一般従業員特に自己の上司に対し同族風を吹かせ協調性に欠けていたこと、また、実弟のBが社長となり、原告自身はかねがね相続問題に不満を抱くとともに、課長より順次降格され平社員にされたことについても面白からず思っていたことが推認できる。前者が前段(二)のC課長に対する暴言、後者が(三)の社長Bに対する暴言となって露呈されたものといえる。
 これらの行為は、被告会社における原告の同情すべき立場を考慮に容れても、企業の組織秩序を乱すものであって、同族会社にあっては殊更かかる行為は厳しく非難されなければならない。したがって、原告の前記行為が就業規則四一条四号の「上司に対し暴言を用いたとき」に該当することは明らかであり被告会社が原告を諭旨退職処分にしたのは相当である。
 〔解雇―解雇予告と除外認定―労働者の責に帰すべき事由〕
 次に予告手当金請求について考えるに、前認定のように、原告は懲戒処分としての諭旨解雇になったものであるから、労基法二〇条一項但書後段の労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇された場合に該当するものと解せられるから、被告会社は原告に対し予告手当支払の義務を負わないというべきである。したがって、その余の点を判断するまでもなく原告の予告手当金請求は理由がない。