全 情 報

ID番号 00624
事件名 仮処分異議事件
いわゆる事件名 出島運送事件
争点
事案概要  赤字経営に陥り、人員削減の必要に迫られ、他との協調性、作業能力および勤労意欲において最も劣る者というの整理基準に基づき私用欠勤等の多かったコンクリートミキサー車の運転手を解雇した会社に従業員たる仮の地位の保全を命じた仮処分決定に対し異議が申し立てられた事例。原決定認可(申請認容)
参照法条 民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
裁判年月日 1978年6月29日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (モ) 1048 
裁判結果 認可
出典 労働判例306号42頁
審級関係
評釈論文
判決理由  二 (本件解雇の効力について)
 1 一般に労働者は企業からその労働の対価として得ている賃金によってのみ自己及び家族の生活を支えているものであるから、解雇によってその職場を失うことが当該労働者にとって経済的、精神的に極めて大きな打撃であることは明らかであり、特に本件のようないわゆる整理解雇の場合は、懲戒解雇などと異なり労働者に特段責められるべき事由がないのに、使用者(企業)の都合により一方的になされるものであることを併せて考えると、整理解雇の有効性については、その前提要件を厳格にし、且つ公平の見地から慎重に判断すべきである。
 2 したがって当裁判所は、申請人主張のように、整理解雇が有効であるための前提として
 (イ)その解雇が企業において他のあらゆる経営上の努力を尽したうえでの必要やむをえざる最後的手段であること(解雇の必要性)。
 (ロ)その必要にもとづき、公平の見地から客観的妥当性のある整理基準を設定し、しかもそれを当該企業の全労働者に明示したうえでなされること(解雇基準および基準運用の合理性)。
 (ハ)整理対象者は、非整理対象者らと比べて、公平の見地からも右基準に明白に該当する者であること(解雇手続の合理性)。
 以上の三条件が少くとも充足されなければならないと考える。
 3 よって、右見解にもとづき本件解雇の有効性につき検討するに
 (一)(証拠略)を総合すれば、被申請人主張事実中1、2各記載の事実はすべてこれを認めることができ、右認定に反する疏明はない。
 (二)そうすると、本件解雇の行われた昭和五一年四月当時、被申請人会社において、人員整理を必要とする過剰人員を抱えていたことは一応肯認できる。
 (三)そこで進んで、被申請人のなした申請人への本件解雇通告が理由あるものであるか否かにつき検討することとする。
 (イ)先ず(証拠略)によれば、会社は労働組合と整理基準について討議を重ねた結果、就業規則第三条に「従業員は誠実・勤勉・調和を旨とし、その綜合力を結集して働く集団としての実を挙げ、以て社業の発展に努めなければならない。」とある条項を整理基準の基本原則とすることに合意をみたこと、そこで会社は右条項に掲げられている誠実・勤勉・調和を基準の大綱とし、具体的事実をもって整理対象者を選定した結果、申請人が全従業員の中で、〔1〕上司や同僚との協調性、〔2〕作業能力、〔3〕勤労意欲の各点において最も劣るとして解雇通告をなしたものであることを一応認めることができる。
 (中 略)
 (ニ)しかしながら右〔1〕ないし〔2〕記載の各事実は、これを総合して客観的に評価した場合、被申請人主張のように、申請人において若干誠実さ、勤勉さに欠ける点がないとは言えないかも知れないが、そのいずれをとりあげても極めて些細なことであり、社会生活をしている通常人としてこの程度の私用欠勤等、または不注意な動作は、時にはあり得ることであるし、右欠勤等も無断でなしたわけではなく、必ず事前に届出をしているのであるから、これらの事実があったからと言って、特に申請人を勤務態度不良として強く非難しなければならない程のものでないことは一見明白である。また申請人の勤怠状況についても欠勤等が比較的多かった昭和四九年度は、被申請人会社の前身であるA会社時代のことであって、しかも当時は申請人本人尋問の結果によれば、有給休暇の制度が採用されていなかったことが認められるのであるから、そのことからすると特に非難すべき程度のものでないことは言うまでもない。
 (ホ)そのほか、被申請人は申請人が全従業員中誠実・勤勉・調和の点において最も劣っていると主張しているが、右基準は出勤簿等により評価できる勤怠状況の点を除き、極めて抽象的且つ主観的な評価に頼らざるを得ないものであるところ、本件整理の対象とならなかった他の従業員と比較すべき資料について全く疏明がなく、かえって申請人本人の供述によれば、本件整理の対象とならなかった被申請人会社の現従業員三〇名と申請人とを、被申請人会社の前身時代をも含めて、雇傭年数、年令等で単純に比較した場合、申請人の会社に対する過去及び将来へわたっての貢献度は、少くとも全従業員のうち中位にあることが認められ、結局本件においては、申請人のみ唯ひとりを解雇しなければならない合理的な事由(換言すれば、被解雇者が申請人でなければならないという)は存しないものと言わなければならない。
 4 以上を総合すると、本件解雇は、解雇基準および基準運用の面において合理性を欠くばかりでなく、解雇されなかった他の従業員との比較(すなわち、何故申請人のみが解雇されたか)の点において合理的な理由がないことになるので、その余の争点について仔細に判断するまでもなく、解雇権の濫用として無効たることを免れない。