全 情 報

ID番号 00628
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 住友重機事件
争点
事案概要  使用者のなした整理解雇につき、解雇権の濫用である等として、従業員としての地位の保全を求めた仮処分事件。
参照法条 民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 1979年7月31日
裁判所名 岡山地
裁判形式 決定
事件番号 昭和54年 (ヨ) 60 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報1023号3頁/労働判例326号44頁
審級関係
評釈論文
判決理由  1 一般に、企業が経営危機を打開してその存続、再建を図るため、どのような経営合理化方策をとるかは、いわゆる経営権の範囲に属し、経営者の判断が尊重さるべきものである。しかしながら、それが従業員の整理解雇に及ぶ場合、整理解雇が終身継続的な雇傭関係を期待する労働者を、特段の責に帰すべき事由なく一方的に企業外に排除するものであること(もっとも、企業に対する貢献度が低い者とか職場秩序維持の上から問題のある者等を対象とする場合も少くないが、これとても、懲戒処分をするまでには至っていないのが通例であろう)、整理解雇の背景として存する経済不況のもとでは、被解雇者の再就職はもとより容易ではなく、時としてその生活を破壊し生存自体を脅やかすに至ること等に鑑み、整理解雇の効力は、労働契約上の信義則から導かれる一定の制約に服すべきものと解される。すなわち、(1)企業が客観的に高度の経営危機下にあり、解雇による人員削減が必要やむを得ないものであること、(2)解雇に先立ち、退職者の募集出向配置転換その他余剰労働力吸収のための努力を尽くしたこと、(3)整理基準の設定およびその具体的適用(人選)がいずれも客観性・合理性に欠けるものでないこと、(4)経営危機の実態、人員整理の必要性、整理基準等につき労働者側に十分な説明を加え、協議を尽くしたことを要し、もし右の要件に欠けるところがあれば、解雇権の濫用としてその効力は否定さるべきものと考える。
 2 なお、右(1)の要件については、これを極めて厳格に解し、整理解雇を行わなければ企業の倒産が必至であるとか、企業の存立自体が不可能となる場合でなければ、法的に許されないとする見解がある。整理解雇が人員整理の最終的な手段であることを強調する趣旨と解されるが、現実の問題として、司法審査においてその要求するような経営状況の分析及び予見を果して常に完全になし得るかどうか、これが可能であるとしても、例えば、経営者が「倒産必至」の見通しを立てたことが事後的に是認し得られる時点よりも一歩早く解雇した場合は解雇無効となり、逆に一歩遅れるときは必然的に企業の倒産を来すこととなるが、本来自由であるべき経営権の内容にそこまでの制約と危険を課することが果して妥当かどうか、また、一般に解雇対象者が多数ないし高率の場合においてはじめて、倒産の危険回避との関係を生じるのであって、少数ないし低率の場合は、その解雇を行わなくとも直ちに倒産の危険を生じない場合も多いと考えられるが、上記の見解は、右後者について常に整理解雇を無効と断ずるのであろうか。以上のような疑問を免れず右見解に全面的に賛同することはできない。経営危機下における企業経営者の責務とその権限が、倒産という破局からの回避の一点のみに尽きるものではなく、より広く経営状態改善のためのあらゆる努力に向けられるべきものである(株主、従業員一般、会社債権者等はこれを期待しているとみられる)ことからしても、整理解雇を企業倒産必至の場合のみに限局することは、経営権ないし経営の自由を制約することやや大幅に過ぎると言わざるを得ない。
 結局、整理解雇を行う必要性としては、単に生産性向上とか人件費節約のためという程度では足りないこともちろんであるが、前記(1)のとおり、客観的にみて企業が高度の経営危機にあり、解雇による人員削減以外に打開の方途がないと認められる場合には、他の(2)ないし(4)の諸点を満たすことと相まって、その効力を是認すべきものと考えられる。
 同申請人は、「過去三年間(昭和五〇年一一月一日から同五三年一〇月三一日まで)に年次有給休暇及び就業規則所定の休暇以外の欠勤が一年につき五日以上もしくは通算一〇日以上の者」に該当するとして解雇されたものである。
 (中 略)
 欠勤・遅刻等を整理解雇の一基準とすることには合理性が認められるし、会社における年間労働日が二四七日で、年休、各種休暇等もあることを考えると、右基準に定める日数が過少とは言えない。そして、申請人X1の欠勤はこれを上回ること甚だしいものがある。しかも、真実病気欠勤が多いのであれば、健康面での職務適格性が問題となることはさておき、少くとも就労意欲の不足を云々することはさし控えるべきであろうけれども、同申請人が病気と称して欠勤したもののうちには、家庭の都合や交際上の理由からであるにもかかわらず、病気欠勤として届け出たものがあることを申請書中において自認しているし、また、例えば五二年の病気欠勤一七日中診断書提出は五日のみであることからもこのことが推測される。そして、上司の再三にわたる注意にもかかわらず、改善のあとを窺うに足りない。
 このような場合、会社経営の現況に鑑み、寄与の程度が劣る者として整理解雇の対象とすることは正当というべく、同申請人に対する本件解雇は有効と判断される。
 右両名は、「過去五年間(昭和四八年一一月以降)に減給又は出勤停止の懲戒処分を受けたことのある者、但し、改悛の情の著しい者は除く」の本文に該当するとして解雇されたものである。
 (中 略)
 しかし、右Aの処分は、比較的軽微なものとみられるうえ、本件解雇に先立つこと四年余のことであって、右処分歴から、現在なお、職場秩序の維持や能率向上を阻害する者とみなすことはできず、これを理由とする整理解雇は合理性を欠くと言うべきである。また、右Bは右配転拒否により一旦懲戒解雇の処分を受けたが、その後会社組合間の交渉により、名古屋への配転に応ずれば出勤停止に変更する旨が合意され、結局同人が配転に応じたため、懲戒解雇は撤回されたことが認められるのであって、右のとおり結果的に配転命令に服したことによって、会社の人員配置計画は遂行されたこととなるから、右処分の一事を理由に解雇することは合理性に乏しく、かつ、同申請人にとって苛酷に失すると考えられる。
 右両名は、「過去三年間(昭和五〇年一一月一日から昭和五三年一〇月三一日まで)に事故欠勤、無届欠勤が一年につき三日以上もしくは通算六日以上の者、但勤怠の状況が著しく改善された者を除く」に該当するとして解雇されたものである。
 なお、右類型の注記によれば、遅刻・早退・私用外出の著しい者を含み、また無届欠勤は一日をもって事故欠勤二日とみなす旨定めている。
 (中 略)
 一般にこのような欠勤・遅刻等を整理解雇の一基準とすることは、勤労意欲及び仕事への寄与度を就労日数の面から観察し、その低い者を排除しようとするものであって、それ自体合理性がないとは言えない。ただし、無届欠勤を事故欠勤二日と換算することは、労務管理上の必要から一種の約束として定めておく意味があるとしても、それを直ちに整理基準として導入するまでの必然性があるとはみなし難い。前記のような目的からは、このような操作を施すことなく現実の欠勤日数に着目するのが妥当と考えられる。
 右申請人ら五名は、「勤労意欲にかけ業務に不熱心な者及び勤務成績の不良な者」に該当するとして解雇されたものである。
 ところで、勤務成績不良者を整理基準とすることは、一般的にみて、優秀な労働力のみを結集して企業運営の合理化、能率化をはかろうとする人員整理の趣旨によく適合するから、その基準が正しく公平に適用される限りにおいては、適切かつ合理的といえよう。整理解雇の基準としてしばしば掲げられ、論ぜられるのは右の理由によると解される。
 (中 略)
 会社は、勤務成績を客観的な数字として表わそうとする配慮はみられるものの、その基礎となる考課内容自体は、前記のとおり人物・勤務振りその他評定者の主観的判断の入り易い項目であることは否定できないし、また、大多数の者が昇給点数六・〇であるのに対し、申請人らはいずれも五・五点(申請人X2、同X3、同X4、同X5は六・〇点が各一回ずつある)であって、その差はわずか〇・五点(考課点数にして一点から一四点の差)にすぎず、この差が果して解雇を決定するほどの重大なものか、疑問なしとしない。五・五点以下の者はなるほど玉島製造所内において僅少であるが、他方、会社釈明によれば、会社全体での昇給点数の実態は、五・五点以下の者昭和五二年度一二六三名(一一・四三パーセント)、同五三年度一三四三名(一二・六九パーセント)というのであり、玉島において何故にさほど僅少なのかその理由は明らかでなく、この点でも評定者の主観の混入が疑われるのみならず、同基準類型該当者数を両組合間で比較すると、会社的にはC労組八一名、全造船玉島分会一〇名であり、玉島製造所内においてはC労組玉島支部四名(約九〇〇名中)、玉島分会一〇名(約一〇〇名中)であって、組合員数に比較し玉島分会員の占める比率が甚だしく高いことが明らかである。同分会員であることの故に不当に低く評価されたものか、いま直ちに明らかにする資料はないけれども、その比率の差は極端であって、評価の偏りを推測させるものがある。
 以上の諸点を総合すると、会社の考課表を唯一の資料として、申請人X2ら五名を被解雇者に選定したことは、公平及び合理性の面で疑問が大きく、本件解雇の効力を肯認することはできない。
 右六名は、「不採算部門で内作不適のため、廃止する職場(鋳造工場木型部門)に所属する者」として整理解雇されたものである。
 (中 略)
 会社は申請人ら六名の配転、出向につき考慮し、その努力も経たことが一応認められ、木型部門廃止の必然性と併せ考えると、このような場合、なお整理解雇の効力を否定することは、会社にとって過重な負担を強いるものとの見方もあり得るであろう。
 しかしながら、申請人ら六名はいずれも若年で入社し、直ちに木型工として養成され、一貫して木型部門で就労してきたものであって、これは会社の決定、指示に基くものである。また、右六名は他の基準類型にみられるような、個人的な態度、行動等を問題にされているものでもない。これらの点を考えると、木型部門の廃止により、直ちに無用のものとして社外に排除することは、申請人らにとって苛酷に過ぎるとの感を否定できない。年令等の点で困難はあっても、再教育訓練により職種転換をはかり、仮に玉島製造所内に配置が困難であれば他の事業所に配転させてでも、雇傭維持に努力するよう会社に期待すべきものと考える。
 なお、また、会社は経営改善計画(2の2)において、「内作不適格のもの(中略)は別会社化を検討する」と表明しているところ、右は特に木型部門を除外する趣旨とは解されないが、本件解雇の際、木型部門の右別会社化の問題をどの程度具体的に検討したのか、またその検討の結果実行不能との結論に至ったものであるのか、この点十分な疏明がないから、別会社設立、同社への出向という方法による解雇回避の途も残されていると解して差支えないであろう。
 以上のとおり、申請人X6ら六名については、解雇に先立って会社の採るべき手段の余地があり、これを尽くさないでした本件解雇は、権利の濫用としてその効力を否認すべきものである。
 同人は、「正当事由なく出向に応じられなかった者」に該当するとして解雇されたものである。
 (中 略)
 ところで、職種変更を伴う出向は、出向者に種々の不利益を与えることがあるから、労働契約上無条件に許されるものではないが、会社が経営危機の状況にあり、雇傭維持努力の一環としてやむをえず出向を命ずるような場合には、これを拒否する正当な理由のない限り、社会的に相当なものとして許容されるであろう。本件についてみるに、会社は当時すでに一次的な減員計画に基き大幅な出向、配転等を実行したが、なお経営の悪化が著しいため、前記経営改善計画を立案、提示していた段階であって、少くとも出向が円滑に行われないかぎり、その再建の計画は基本的に不能に陥る状況にあったとみられる。また、出向先は自宅から通勤可能の距離内にあり、一身上もこれを妨げる特段の事情があったとはみられない。
 およそ、企業に人員整理の必要が高度に存するにも拘わらず、整理解雇という手段に訴えることを極力制約しようとする論理は、解雇に先立ち、出向・配転・任意退職の募集・一時帰休その他解雇回避のための努力を最大限に要求し、この点に不徹底がある以上解雇を許さないとするものである。したがって、その出向・配転等が必要、相当なものであるのに、特段の理由なくこれを拒否する者に対し、なお整理解雇を容認しないことは一種の背理と言うほかはない。
 結局、申請人X7に対し前記基準を適用して解雇したことには、必要性、合理性があり、解雇の効力を是認すべきものと判断される。