全 情 報

ID番号 00738
事件名
いわゆる事件名 高知放送事件
争点
事案概要  ラジオアナウンサーが宿直勤務に従事していたところ二週間内に二度寝すごしてしまいニュース放送を放送できなかったことを理由に解雇されたため、右解雇の無効を主張し地位保全の賃金支払の仮処分を求めた事例。(認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1967年12月8日
裁判所名 高知地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ヨ) 75 
裁判結果
出典 労経速報743号4頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の濫用〕
 (1)私企業における懲戒処分は、使用者が、その経営秩序を維持し、生産性の向上を図るために、経営秩序違反または生産性阻害その他の信義則違反をなした労働者に対し制裁として、一定の不利益を科するものであって、使用者が就業規則に懲戒処分に関する規定を設けた場合においても、それらの規定は、本来、右の趣旨を有するものであると解される。そして、就業規則に軽重数段階の懲戒処分の種類が定めてある場合において、使用者が違反行為のあった労働者に対し、いずれの懲戒処分を選択すべきかについては、元来、使用者の自由な裁量に委ねられているものと解するのが相当であるが、使用者の懲戒処分選択に関する判断は、違反行為と情状に照らし、常に社会通念上肯認される程度の客観的妥当性を有することを要し、ことに解雇処分の採択については、現在の労働経済情勢の下においては、それが、労働者にとってはその死命を制する重大な制裁であることに鑑み、違反行為および情状を考慮し、その労働者を企業内に存置するときには、経営秩序をみだし、生産性を阻害することが明白である場合に限って許されるものと解すべきであり、右の程度に至らない場合に、解雇処分をもって臨むことは、懲戒権の濫用として許されないところといわなければならない。
 〔解雇―解雇権の濫用〕
 (イ)まず、第一、第二の各事故がいずれも被申請人にとって重大な事故であり、特に申請人は二週間以内という短期間に二度もかような事故をひき起こしていること、第二事故ののち、直ちに提出すべき事故報告書を提出せず、被申請人の要求によって提出するに至った事故報告書は、事実をわい曲し、第二事故の根本原因が、あたかも被申請人の社屋管理の不備にあるかのような態度に出たこと、およびA常務に提出して返却された始末書においても、ほとんど謝罪の意を表わしていなかったこと、以上の諸点が認められるので、これらの点を考慮し、申請人が、アナウンサーとしての職責を充分に果しえたとは到底いえないばかりでなく、被申請人が申請人をその企業内にとどめるときには、将来、その経営秩序をみだすに至るものと判断したこともあながち理由がないものということはできない。
 (ロ)しかしながら、右各事故が、いずれも申請人の寝すごしという過失行為によって発生したものであること、第二事故については、申請人は、一刻も早くラジオスタジオに到着すべく努力していたと認められるばかりでなく、事故後においては、A常務に対し、一応事故の詳細を口頭で報告しており、始末書も再度提出していることおよび同始末書の前記内容などの点から考え、必ずしも反省していないとはいえないこと、申請人は二五歳であり、勤務年数二年間であるところ、従前、被申請人から懲戒処分を受けたことがなく、その勤務態度も格別に不良とは認めがたいこと、第一事故は、第二事故が発生しなければ前掲所定の手続による懲戒処分の対象とはならなかったと認められ、また被申請人の管理職である坂井編成局長が第一事故の事後措置を正規の懲戒手続にゆだねていたとすれば、第二事故発生以前に、被申請人において、宿直勤務における放送事故防止につき、何らかの措置を講じえたものと考えられること、更に、被申請人は、昭和四一年五月ごろまで実施していた放送責任者の宿直勤務を廃止したが、以後、これに代替して、早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置を講じていなかったこと、以上の諸点が認められ、これらの諸点を考慮すれば、申請人を被申請人の企業内に存置することが、明白に、被申請人の経営秩序をみだし、その生産性を阻害するに至るものとは到底認めることができない。
 そうすると結局、本件解雇は、社会通念上肯認される程度の客観的妥当性を有しないものであって、苛酷にすぎ、解雇権を濫用したものであるといわざるを得ない。