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ID番号 00746
事件名 解雇無効確認請求控訴事件
いわゆる事件名 近畿大学事件
争点
事案概要  非行、不行状等を理由に休職処分を受けた職員が、休職期間満了後は自然退職とする旨の就業規則に従い解雇されたのに対して、右解雇の無効確認を求めた事件の控訴審。(控訴認容、労働者敗訴)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
解雇(民事) / 解雇事由 / 懲戒解雇事由に基づく普通解雇
裁判年月日 1968年9月30日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (ネ) 854 
裁判結果
出典 労働民例集19巻5号1253頁
審級関係 一審/00478/大阪地/昭41. 5.31/昭和34年(ワ)3092号
評釈論文 萩沢清彦・教育判例百選198頁
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒手続〕
 被控訴大学はその職員に対し、(1)結核性疾患のため長期休養をする場合、(2)病気その他私事のため欠勤三ケ月以上に亘るとき、(3)在職のまま留学を命ぜられたとき、(4)刑事事件に関し起訴されたとき、(5)業務の都合によるとき、のいずれか一に該当する場合には休職を命ずることができる旨が定められていて、(中 略)。
 みぎ列記の休職事由以外の事由によつて職員の非行を懲戒する趣旨で休職を命ずることは、懲戒手続によらないで懲戒処分をするに等しいことになる。それ故に、正規の懲戒手続を経て該当者に懲戒解雇に値する非行のあることが確認された後同人に対する処罰を軽減して休職処分にするのは別として、このような懲戒手続を経ないで該当職員に懲戒事由に当る非行のあつたことを確定し、これを理由として同人に休職を命ずることは、みぎ就業規則の規定の趣旨上許されないと解すべきである。したがつて、みぎ規定(5)のいわゆる「業務の都合によるとき」の中には、被控訴大学の職員に非行、不行状等があつて同人に執務を継続させることが被控訴大学に不都合であるときを含んでいないと解せられる。
 (中 略)
 非行、不行状等のあつたことを理由として、懲戒手続によつてみぎ該当事実の存否を確定することなく、控訴人に対して同人の意思に反する休職を命じているのであるから、みぎ休職処分は休職事由を前記五事由に制限した被控訴大学の就業規則の規定の趣旨にもとる処罰行為として許されないと解するが相当である。よつて、控訴人に対する本件休職処分は無効であると解するほかはない。
 〔解雇―解雇事由―懲戒解雇事由に基づく普通解雇〕
 通常解雇の許される場合には、たまたま当該通常解雇事由が懲戒解雇事由に該当しても、原則として、使用者がみぎ通常解雇事由がある者を通常解雇手続によって解雇してはならない理由にはならない。
 (中 略)
 もっとも、懲戒解雇が法律上許されない場合(例えば適法な争議行為を懲戒事由とするとき等)に、みぎ法律上の禁止をくぐる脱法的手段として、みぎ懲戒解雇事由ないし他の事由が通常解雇事由に当ると称して通常解雇をするのは、結局みぎ法律上の禁止に触れる行為に該当するものとして無効であるのは当然のことであるが、そうでなくても、就業規則ないし労働協約に懲戒解雇手続が規定されている場合に、みぎ規定に従って懲戒解雇手続によって解雇をすることが使用者に対して著しい不利益をもたらすおそれがある。
 (中 略)
 ために、使用者の真意は当該被傭者の非行を懲戒するにあることが明白であるにもかかわらず、もっぱらみぎ懲戒解雇手続を経由することを回避することを目的として、通常解雇に藉口して所期の目的を達成したり、解雇の当否がもっぱら当該被傭者の非行事実の存否にかかっていて、その存在することが既に明らかになっている非行の程度情状等の軽重にかかっていないために、懲戒解雇手続を経由しなければ解雇の当否についての適正妥当な判決を期待できない場合に、嫌疑のみで解雇を実現するために通常解雇手続によって解雇したりする等、本来通常解雇手続によつて解雇するのが適当でない場合に通常解雇手続による解雇が行われたときには、このような解雇は解雇手続の選択自体に信義則違反があるものとして、当該解雇事由の実体の当否について判断するまでもなく、違法無効な解雇と云うことができる場合も考えられないわけではない。
 (中 略)
 以上いずれに当ることも認められないから、被控訴大学が控訴人を懲戒事由に当る事由に基づいて通常解雇手続によって解雇しても、みぎ解雇が手続上違法無効な解雇であると云うことはできない。