全 情 報

ID番号 00756
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 山陽新聞社事件
争点
事案概要  報道事業を営む会社の方針等を批判する宣伝ビラを企画立案したとして懲戒解雇された組合役員らが、右解雇は協約所定の解雇承認約款に反し、また不当労働行為にあたり無効である等として地位確認等求めた事例。(請求認容)
参照法条 労働組合法16条
労働基準法11条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項
裁判年月日 1970年6月10日
裁判所名 岡山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (ワ) 595 
裁判結果
出典 労働民例集21巻3号805頁
審級関係
評釈論文 松田保彦・ジュリスト485号164頁/片岡昇・労働法学研究会報875号1頁
判決理由 〔賃金―賃金請求権の発生―無効な解雇と賃金請求権〕
 厳密にいえば原告らの各年度における昇給額は右各賃金協定のみをもって機械的に算出することはできないわけであるが、もともと原告らは被告の責に帰すべき事由により就労を拒否されていた結果査定の基礎とすべき実績およびその資料を欠いているのであるから、これを被告主張の如く原告らが解雇される直前実施された昭和三七年四月定期昇給時における実績調整金をもって前記期間すべてを律する計算方法が合理的であるとはいえない。しかも、成立に争いのない甲第一六九号証、乙第八八号証によれば、右査定部分は、後記身分手当の如くこれを支給するか否かの二者択一的なものではなく、毎年の査定においても最低の者でも四割程度の調整金が保障されており、その査定の巾は比較的狭く、被告主張の実績調整金率なるものも原告X1の〇・九一六七より原告X2の一・〇三六に至るまでおおむね平均ランクに近いものであることが認められるから、原告主張の如く組合員平均本給(原告X2本人尋問の結果により真正な成立を認める甲第一四五、一六六号証によれば、前記各賃金協定締結当時の組合員平均本給額は別紙(一)の該当欄記載のとおりであることが認められる)を原告らの各本給額で除した比率を調整金部分に乗ずる機械的計算方法を採用しても著しい不合理は生ぜず、結局前記各賃金協定は査定部分も含めて被告会社の個別的意思表示を俟つまでもなく、原告らに対してその効力が及ぶと解するのが相当である。
(中 略)
 原告らの執務能力、業績寄与度はおおむね平均もしくはそれ以上の水準にあったことが認められるから、原告らは前記各身分のうち後記の如く特定のものについては、身分昇格資格取得に伴なう現実の昇格に対する可成り強固な期待的利益を有する地位にあるものといわなければならない。もちろん、昇格に対する最終的決定権が被告会社に留保されていることは前記のとおりであるが、昇格決定に対する被告会社の従前の取扱いならびに原告らの平均的勤務成績を考慮に入れるならば、原告らの有する地位を単なる事実上の期待もしくは希望に過ぎないものとしてこれを無視するのは相当ではなく、一種の期待権として法律上の保護が与えられるべきものと解するのが相当である。そうすると、身分に対して支払われる身分手当の支給を得べき期待的利益もまた当然法律上保護に値するものといわなければならず、本件において右期待権は被告会社の責に帰すべき解雇および就労拒否により侵害されたことは明らかであるから、右得べかりし利益の喪失を原告らは不法行為による損害賠償として請求し得るものといわなければならない。
(中 略)
 被告会社においては通勤費用を全くもしくは殆んど要しない者に対しても通勤手当が支給されることになっており、反面交通機関利用の場合一定の上限をもって支給打ち切りを定めているのであるから、右通勤手当は必らずしも実費弁償的なものと解することはできず、一種の生活保障的な意味において支給されているものと解さざるを得ない。原告らは被告会社より就労を拒否されている結果本件解雇以降現実には被告会社へ通勤していないとしても、右通勤手当の性格よりみて原告らはこれを請求する権利を有するものというべきである。
(中 略)
 右原告三名の基準外賃金は当該時間外勤務時間数が明らかにされなければ本来算定不能といわなければならないが、右原告三名は本件解雇以降被告会社より就労を拒否されてきたため就労の実績(時間外勤務時間数)を具体的に明示し得ないのであるから、これを現実に算出するためには本件解雇当時の基準外賃金額(解雇予告手当支給に際して算定された額)を基礎にして、それ以後所定賃金月額の上昇のつど新所定賃金月額を旧所定賃金月額で除して上昇比率を求め、これを旧基準外賃金額に乗じて新基準外賃金額を算出する比例計算方式によるのが最も合理的であると解される。
〔解雇―解雇手続―同意・協議条項〕
 前記協約条項は、組合員全員に適用のあるいわゆる解雇承認(同意)約款ではなく、組合四役等の組合役員にその対象が限定されたものであるから、その趣旨は組合自体の有する団結ないしその活動を保障することにあり、個々の労働者の待遇に関する基準(労働組合法一六条)を定めた条項には属しないと解するのが相当である。したがって、前記条項はいわゆる債務的効力を有するものとして、右条項違反に対して協約当事者たる組合より被告会社に対して損害賠償を請求しうることは別として、本件解雇自体の効力は右条項違反の故をもって直ちに無効とはならないといわなければならない。