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ID番号 00765
事件名 所有権移転請求権保全仮登記の移転登記手続、解雇無効確認等請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 江若交通事件
争点
事案概要  雇主の所有する土地を管理の都合上自己名義とされた従業員が、社長の命令に反して、名義を自己の妻および弟に変更したことが就業規則所定の解雇事由に当るとして解雇されたのに対し、右行為は解雇事由に該当せず解雇は無効であるとして解雇無効確認等求めた事件の控訴審。(原判決変更賃金支払請求のみ認容)
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 就業規則所定の解雇事由の意義
裁判年月日 1971年9月30日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ネ) 1929 
昭和44年 (ネ) 133 
裁判結果 変更
出典 タイムズ271号201頁
審級関係
評釈論文
判決理由  前記認定の事実関係によれば、前記覚書は、控訴人と被控訴人の間において、本件農地について被控訴人は控訴人に無断で他に売却せず(不作為)、控訴人においてこれを必要とするときは、被控訴人が本件農地を譲渡することによって蒙る損害を補償することを条件として控訴人の要求に応ずる(給付)ことを、対等の立場に立って約した債権契約であると解するのが相当であって、使用者と従業員との間の命令、服従の関係に立つものではないというべきである。
 もっとも、右覚書の文言中には控訴人の主張にそうかのような記載部分があるが、前記各証拠によれば、右覚書は自己の所有に属すると誤信した控訴人が、自己の従業員に対し保管を命ずるという考えから記載したものであり、被控訴人もまた従業員である立場からいわれるままに捺印したものであることが明らかであるから、文言の一部を捉えて右覚書の趣旨を命令、服従の関係に立つものと解することはできない。
 したがって、被控訴人が控訴人に無断で本件農地のうち前記(イ)、(ロ)、(ハ)を妻および弟の名義にしても、被控訴人が債務不履行の責任を負うのは格別、使用者の命令服従義務違反の問題を生じない。
 (中 略)
 そうだとすれば、被控訴人の前記所為は、社長命令に違反して控訴人の財産を他に処分し控訴人に損害を与えたものではなく、就業規則九〇条二号の「会社の金品を横領したとき」に該当しないことは勿論、同条一九号の「右に準ずる程度の不都合な行為があったとき」にも該当しないものというべく、右事由に該当するとしてなされた前記解雇の意思表示は、その理由を欠き無効であって、被控訴人はその後もなお控訴人の従業員たる地位を有するものであることは明らかである。