全 情 報

ID番号 00781
事件名 地位保全等仮処分申請控訴事件
いわゆる事件名 東急鯱タクシー事件
争点
事案概要  組合半専従の自動車運転手が、勤務成績不良を理由として解雇の意思表示をうけ、予備的に違法争議行為を理由として懲戒解雇されたので、従業員としての地位保全、賃金仮払の仮処分を申請した事例。(原判決変更、申請一部認容)
参照法条 労働基準法12条,89条1項3号,9号
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為
裁判年月日 1973年10月29日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ネ) 352 
裁判結果 原判決変更、一部認容
出典 労働判例192号72頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―賃金請求権の発生―無効な解雇と賃金請求権〕
 解雇の無効を理由として賃金の仮払いを命ずる場合、その金額は解雇当時の賃金額を基準とすべきものである。したがって、当該労働者が月給制で賃金の支給を受けている場合には、解雇の意思表示のなされた日の属する月の賃金額をもって右の基準とすれば足るのであって、この場合に労働基準法一二条所定の平均賃金を基準とする必要は何ら存しないのである。ただ、本件においては、被控訴人は基本給のほか一部を出来高払いとして賃金の支給を受けていたので、解雇前の相当な範囲の期間における平均的な賃金額をもって、本件において支払いを命ずべき金員の基準とするのが相当と考えられるのである。
 そこで、労働基準法一二条が、予告手当、休業手当等の基準として定める平均賃金につき当該事由の発生した日以前三か月間の賃金を基準としていることを参酌し、なお、被控訴人の稼働日数が極端に少なかった昭和四五年一、二、三月は被控訴人の平均的な稼働状態を示すものとはいえないのでこれを除き、その前三か月すなわち昭和四四年一〇月(給与は三五、一〇五円)、一一月(給与は金二八、五七四円)、一二月(給与は金三四、八四五円)の三か月間の平均的な賃金を同条一項本文所定の方法により算出すると、その額は一か月につき金三二、一二七円となる。
 〔解雇―解雇事由―勤務成績不良・勤務態度〕
 従来長期間にわたって半専従の取扱いが維持され企業内に定着していたという経過に鑑み、また右の取扱いを廃止することが組合員個人および組合に多大の不利・不便を課することになることを考慮すると、会社において半専従の取扱いを廃止し爾後就業時間中の組合活動に対し不利益処分をもってのぞむ場合には、その旨の会社の意思が明確に表示されることが必要である。次に、廃止に伴う具体的な措置として、使用者が就業時間中の組合活動を理由に賃金カットをなすことは、前記(二)の説示の趣旨からしてやむを得ないものというほかないが、その場合も、組合において組合業務専従者の取扱いをいかにするか(従来の専従者をいわゆる完全専従の形にして組合が給与の全額を支払うか、あるいは外部から専従者を迎え入れるか等)について考慮する機会を与え、一時に不利・不便を及ぼさないような配慮をなすべきことも当然である。さらに、半専従の取扱いを廃止する旨の会社の意思が表示されたのちも、なお専従役員が従前どおり就業時間中に組合業務に従事したため、これに対し服務規律違反あるいは勤務成績不良等の事由により不利益処分を課する必要が生じた場合でも、右処分は職務秩序維持のためやむを得ない限度のものに止めるべきであり、いやしくも労働者にとって極刑に当たる解雇処分をもって直ちにのぞむようなことは可能なかぎり避ける等の配慮をなすべきことも、また当然である。しかして、以上のような考慮をせずに、会社が組合員もしくは組合に対して一挙に重大な不利・不便を及ぼすような処置をした場合には、これを正当とすべき特段の事情が認められないかぎり、労使間の信義則に反し、あるいは権利の濫用に当たるものとしてその効力を否定されることになるのもやむを得ないことといわなければならない。
 本件についてこれをみるに、既に述べたとおり、会社は、昭和四四年一二月一五日、通達をもって、委員長、書記長について低水揚は許されない旨の警告を発し、これにより初めて、右両名の低水揚について半専従の形で組合業務に従事していることをもって正当な事由となし得ない旨の態度を明らかにしたものであるから、ことにおいて、半専従の取扱いを廃止する旨の会社の意向は一応示されたものということができるが、その後においても、昭和四五年二月中旬に至るまでは、会社は組合との協議によって委員長及び書記長の勤務形態を決しようとの態度を維持していたのであるから、この間においては、会社として、半専従の取扱いを廃止するとともに直ちに何らかの不利益処分をもってのぞむ旨の意思を明確にしていたものとは認め難いのである。したがって、被控訴人としても、その間は引き続き従来どおり半専従の形で勤務して就業時間中に組合活動をなし、その結果水揚が少なくなっても、そのことの責任を問われまいと期待することも無理からぬ事情が存したものというべきである。しかして、このような事情を考慮すると、昭和四五年二月中旬以前における被控訴人の低水揚については、会社においてこれを理由として直ちに被控訴人の責任を問うことは相当でなく、仮に職場秩序維持の見地から何らかの処分が必要であるとしても、これに対し解雇という重大な処分を課することは許されないものというべきである。
 被控訴人が右のような欠勤届を出したうえ連続して欠勤したのは、前示のような諸事情のもとにおいて組合の業務が繁忙になったため、組合執行部の要請に従ったもの、すなわち組合の都合によるものであること、被控訴人は右欠勤期間中は常に組合業務に専念していたこと、右の欠勤は、会社が半専従の取扱いの廃止に伴う具体的な処置についてなお組合と協議する態度を維持していたところに始まりそのまま継続していたものであること、会社の役員Aは昭和四五年二月上旬ごろ組合に対し、組合業務が多忙なら委員長、書記長を完全専従にしたらどうかと提案して、被控訴人らが組合業務に専従し会社が賃金支払義務を免れるものであれば同人らが就労する必要はないとの意向を示したものとみうること、以上の諸点は前記認定により明らかである。これらの事情を考慮すると、被控訴人の側において、右のように欠勤したことについてひとり被控訴人にのみその責めを帰せしめ得ないとみるべき事由の存する一方、会社の側の態度および言動等においても、会社が被控訴人の右欠勤を問責するのは相当でないとみるべき事由の存したものといわなければならない。したがって、被控訴人の前記連続欠勤およびその結果としての低水揚の点については、会社として解雇という重大な処分によりその責任を追及することは許されないものというべきである。
 (五)以上の次第で、控訴人の被控訴人に対する本件解雇の意思表示は、未だ首肯するに足る理由なくしてなされたもので、解雇権の濫用として、効力を生じないものといわなければならない。