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ID番号 00899
事件名 仮処分控訴事件
いわゆる事件名 高知放送事件
争点
事案概要  違法な争議行為を企画、実行したことが懲戒解雇事由に該当するとされたが普通解雇にとどめられた組合役員らが、右普通解雇は不当労働行為に当り無効である等として地位保全等求めた仮処分申請事件の控訴審。(控訴棄却、労働者勝訴)
参照法条 労働基準法89条,1条3号,9号
民法627条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
解雇(民事) / 解雇事由 / 懲戒解雇事由に基づく普通解雇
裁判年月日 1969年9月4日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ネ) 232 
裁判結果
出典 高裁民集22巻4号615頁/労働民例集20巻5号881頁/タイムズ239号178頁/タイムズ241号247頁
審級関係
評釈論文 渡辺章・ジュリスト462号135頁
判決理由  〔賃金―賃金請求権の発生―無効な解雇と賃金請求権〕
 まず諸保険料についていえば、これらの保険料を賃金から控除することはなんら使用者の義務ではない。すなわち、失業保険法第三四条第一項第三三条、健康保険法第七七条第七八条第一項、厚生年金法第八二条第二項第八四条第一項等の規定によると、これらの保険料を納付する義務を負担しているのは、労働者でなくして事業主であり、事業主として自己の出捐によって保険料を納入して当然なのであるが、保険料の中に労働者負担分なるものがあり、結局使用者は労働者よりその分を取立てることになるので、取立の便宜の措置として、賃金から控除することが許されているにすぎないことが明らかである。そうであるから事業主において未だ保険料を納付していないにかかわらず、判決において諸保険料を控除すると、法律の所期するところを越えて事業主に利便を与える結果になり、妥当ではないといわなければならない(前記の諸規定の趣旨からすると、労働者が判決に基づく強制執行によって、賃金全額の満足を得、その後に使用者が諸保険料取立のため債務名義を要することとなってもやむを得ないというべきである)。
 次に税金についていえば、所得税法第一八三条、地方税法第三二一条の五等の規定によると、使用者は、諸保険料の場合と異なり、右各税金について源泉徴収の義務を負っていることが明らかである。
 しかしながら、源泉徴収は、その事務の性質上、使用者が任意に賃金を支払う場合において負担する義務であり、その意に反して強制執行により取立を受ける場合においてまで負担する義務ではないと解するのが相当である。したがって、裁判所としては、賃金の全額について支払を命ずべきであり、労働者が強制執行により賃金の取立をした場合においては、税務官庁は労働者より税金を徴収すべく、使用者に源泉徴収の責任を問うべきではないこととなる。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒解雇の普通解雇への転換〕
 〔解雇―解雇事由―懲戒解雇事由に基づく普通解雇〕
 懲戒解雇に値する事由ありとして普通解雇の意思表示をしたが、客観的にみて、懲戒解雇に値する事由が存在しなかった場合、普通解雇としての効力が認められるかどうかについて考えるに、普通解雇に該当する事由が存在する限りは、普通解雇としての効力を生ずるものと解する。けだし、懲戒解雇の事由ありとしてなす解雇であっても普通解雇としての告知をしている以上、法律上普通解雇の意思表示がなされたものと解すべく、普通解雇の要件の存在する限りは、普通解雇の効力を認めざるを得ないと考えられるからである。
 そこで次に、「かりに被控訴人らの行為が懲戒解雇事由に該当しないとしても、就業規則第一五条第三号のやむを得ない事由には該当するから、本件解雇は有効である」旨の控訴人の主張について判断する。
 (中 略)
 右条項にいう已むを得ない事由とは、就労困難な心神の障害や天災事変等による事業の廃止に準ずるような事由を指し、本件事案のような懲戒解雇事由に至らない程度の非違行為を指さないことが明らかである。むしろ、職場規律、経営秩序に対する違反行為は、その程度に応じて懲戒処分により措置し、前記の条項によっては解雇しないのが就業規則の本旨とするところであると解される。もとより已むを得ない事由の判断に当っては、本人の行動態度も無関係ではなく、たとえば、職務に対する甚だしい不適格性のごときも考慮に入るであろうが、さきに認定した被控訴人らの行為の程度では、いまだ職務に対する甚だしい不適格性ないしは已むを得ない事由が存すると認めることはできない。