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ID番号 00955
事件名 債権差押及転付命令無効確認等請求事件
いわゆる事件名 三井鉱山事件
争点
事案概要  従業員であった原告X1が会社に対して有する退職金等の債権差押、転付命令を得た被告に対し、X1X2(夫婦)が、右退職金はX1がX2にすでに譲渡した等の理由のもとに右債権差押、転付命令無効確認等を請求した事例。
参照法条 労働基準法24条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の範囲
賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 直接払・口座振込・賃金債権の譲渡
裁判年月日 1962年3月23日
裁判所名 福岡地飯塚支
裁判形式 判決
事件番号 昭和36年 (ワ) 70 
裁判結果
出典 下級民集13巻3号531頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金―賃金の範囲〕
 退職金の支給が、使用者の労働者に対する一種の恩恵的給付として任意的になされるものでその給付が使用者に義務づけられていない場合においては、これをもって賃金と看做すことは困難であるが、退職金の支給が労働協約、就業規則等において明確に規定せられ、使用者の義務とされており、その支給条件等が明らかであるかぎり労働の対償としての性格を有するもの、すなわち退職を事由として支給される賃金と解するのが相当である。これを本件についてみるに、証人Aの証言によれば、被告会社においては退職金の支給については退職金支給規程をおき従業員が退職する場合には同規定によって退職金の支給がなされていること、原告Xは右規程にもとづき総額金四十五万九千九百五十七円の退職金(但し税金、保険料等を控除して手取額金三十六万千二百五十三円)を受取ることとなっていることが認められるのであって、他に右認定を左右するに足る証拠は存在しない。右事実に徴すれば本件退職金は単に恩恵的に支給されるものではなく、労働の対償の一部たる性質を具有し、賃金とみなすのが相当である。すなわち原告Xは退職を条件として当然に賃金たる退職金の支払を請求する権利を有するものである。
 〔賃金―賃金の支払い原則―直接払・口座振込・賃金債権の譲渡〕
 本件退職金のような労働者の賃金については、労働基準法第二十四条により法令に別段の定めがあるか、もしくは労働組合との間に協定等がある場合のほか、その履行方法としてはすべて直接本人に支払うことが要求せられ、これに反する支払は同法第百二十条により処罰されることとなっている。右のいわゆる本人直接払の原則は、同法第五十九条などと同じく、従来我国においては第三者が種々の名目を用いて労働者の賃金を奪取しその生活を脅かすことが多かったために、賃金を確実に労働者の手に渡してその生活を保護するために罰則付で労働者以外の者が賃金をうけとることを禁止するもの、すなわち労働者保護の建前から規定せられているのであって、右規定の文理上は補償をうける権利(同法第八十三条)の場合のように直接賃金債権の譲渡を禁じていないけれども、その立法趣旨よりすれば実質上賃金債権の譲渡を許さずこれに反する賃金債権の譲渡は違法無効であり、使用者も賃金の譲受人に対して賃金を支払うことは許されず、支払っても無効であると解するのが相当である。