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ID番号 00971
事件名 給料支払請求控訴事件
いわゆる事件名 日本赤十字社事件
争点
事案概要  ストライキを理由とする賃金カットが翌月分の給与から行われたために、労働基準法二四条一項に違反するとしてカット分を請求した事例。(一審 認容、二審 一部認容)
参照法条 民法510条
労働基準法24条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 過払賃金の調整
裁判年月日 1967年3月16日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和39年 (ネ) 2596 
裁判結果
出典 高裁民集20巻2号158頁/労働民例集18巻2号166頁/時報485号63頁/東高民時報18巻3号39頁
審級関係 一審/00964/東京地/昭39.10.20/昭和36年(ワ)185号
評釈論文
判決理由  しかしながら、一定の期間内の労働に対する賃金が、当該期間の満了前に支払われるように賃金支給日が定められている場合には、その支給日以後の労働に対する賃金は常に前払されるのであるから、支給日後賃金期間満了前に賃金債権が発生しない事由が生じたときは、その前払分は過払に帰したわけであり、これを清算ないし調整するためには、後に支払われるべき賃金から控除するよりほかに適当な方法がなく、これを許しても同法二四条の法意に反するとは考えられない。蓋し、この場合は、賃金と関係のない他の債権を自働債権とする相殺の場合とは全く趣を異にし、労働者は賃金全額の支払をうけたことに変りはなく、また、それが労働者の合理的な意思に反するとは考えられないからである。このことは賃金支給日前に賃金債権不発生の事由が生じたのに、支給日が接近しているため、複雑にして多人数の賃金計算が技術的に不可能又は困難で事実上控除できないまま一応全額の賃金を支払った場合も同様と考えられる。従って同法二四条一項但書によって除外される場合に当らなくても、上記のような調整的清算的な決済方法として行われる過払賃金の返還請求権と賃金債権との相殺は許されるものと解すべきである。
 もっとも、調整的清算的な賃金相互間の決済方法であっても、結局は労働者の給料生活の安定を害する虞れがあるから、右のような調整的相殺はその時期、方法および控除しうるべき金額等の諸点について一定の制限に服すべきものと解するのが相当である。すなわち、労働者がもはや控除されることはないであろうと考えるようになった頃に到って、使用者がなんの予告もなく突如として相殺の意思表示をなす如きは許されないし、またその控除額に関しては、労働者の受ける賃金債権は、その支払期に受くべき金額の四分の一を超えるものについては差押が禁止せられ(民訴法六一八条)ているのであるから、使用者は右制限超過の賃金債権を受働債権としてなす相殺をもって労働者に対抗することはできない(民法五一〇条)ものといわなければならない。