全 情 報

ID番号 00974
事件名 懲戒解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 ナウカ事件
争点
事案概要  共産党と関係の深い出版社において党の内部分裂に端を発した社内対立を機に退職した従業員らが、事後、会社の諸規定、指示への不服従を理由に懲戒解雇されたのに対し、右懲戒解雇の無効確認等求めた事例。(一部認容、一部棄却。退職金支払義務のみ認容)
参照法条 労働基準法11条,24条1項,89条1項9号
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1968年8月1日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和39年 (ワ) 9481 
裁判結果 一部認容 一部棄却
出典 時報539号71頁/タイムズ229号309頁
審級関係
評釈論文 佐々木允臣・同志社法学115号54頁
判決理由  〔賃金―賃金の支払い原則―全額払〕
 本件雇傭契約関係の消滅するに至った原因が原告らの任意退職の意思表示にもとづくものであることは前認定のとおりであるから、被告会社は右解雇予告手当金を支払う義務がないのに支払ったものというべきであるから、被告会社は右支給した予告手当金を非債弁済として不当利得返還請求権を有するものというべきである。
 ところで、被告はこれを自動債権として原告らに対する退職金債務と対当額において相殺する旨抗弁するが、前掲甲第五号証によれば被告会社の就業規則では勤続年数満二年以上の者が退職するときは退職金を支給すること及び支給基準については別に定めると規定されていることが認められるので特段の事情のない本件では、右に該当する従業員が退職するときは必ず所定額の退職金を支給すべく支給者に裁量の余地はないものと認めるのが相当である。そうであれば、原告らの請求する本件退職金は、労働基準法第一一条にいう労働の対償として使用者が労働者に支払う賃金に該当するものというべきであって、労働基準法第二四条第一項により、被告は原告らにこれを現実に支払することを要し反対債権をもって相殺することは許されない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―業務命令拒否・違反〕
 もっとも原告Xが同年六月中A書店のB仕入課長代理にあった際、自分が書店を開いたらよろしくたのむと依頼したことは先に認定したとおりであり、証人Cの証言によれば、被告会社は幹部従業員である原告ら四名が一斉に退職したため地方の営業所長らを呼び寄せて原告ら退職による空位を埋めるなどの措置を講ぜざるを得なかったので営業上若干の障害を蒙ったことを、また《証拠略》によれば原告らは本件懲戒解雇の意思表示を受けた後である同年九月下旬か一〇月上旬頃被告会社と競業関係に立つ訴外D株式会社代表取締役Eに会い、その後同訴外会社に雇われるに至ったことを、更に《証拠略》によれば、その頃被告会社から十数名の従業員が退職し、その殆んどがその頃同訴外会社に入社していることを、それぞれ認め得るけれども、これらの事実があるからといって、それだけで原告らが被告会社の諸規定指示に従わず、不正の行為をしたものとは断じ難い。(中 略)。
 なお原告Xが社内でミコヤン演説とかスースロフの報告論文を賞讃したことは前認定のとおりであるが、右賞讃が賞讃に止まるかぎり、たとえ被告会社代表者らの主義主張に反するとしても、それだけで会社の営業方針を妨害したものというに足りないのみならず、他に原告らがこれに関連して会社の諸規定に反し、その指示に従わない具体的な事実のあったことを肯認されるに足りる証拠がない。(証人Cの証言では、本件懲戒解雇の意思表示前かかる事実のあったことを認めるに足りない。)
 (中 略)
 そうすると本件懲戒解雇は被告主張の如き懲戒解雇理由がないのに拘らず、これありとしてなされたものであって懲戒権の濫用として無効というべきである。