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ID番号 00976
事件名 給与支払請求事件
いわゆる事件名 福島県教職員事件
争点
事案概要  勤務評定反対の統一行動として九月中に職場離脱した公立学校の教職員らが、年末の勤勉手当につき生じた過払い給与を翌年二月ないし三月分の給与から控除されたのに対し、右控除は労働基準法二四条に違反し無効であるとして控除分の支払を求めた事例。(上告棄却、労働者敗訴)
参照法条 労働基準法24条1項
民法505条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 過払賃金の調整
裁判年月日 1969年12月18日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (行ツ) 92 
裁判結果 棄却
出典 民集23巻12号2495頁/時報581号3頁/タイムズ244号124頁/教職員人事関係裁判例集6号248頁/裁判集民97号831頁
審級関係 控訴審/00966/仙台高/昭40. 7.14/昭和38年(ネ)174号
評釈論文 伊藤博義・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕106頁/宮島尚史・季刊労働法76号99頁/近藤正三・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕60頁/窪田隼人・判例評論139号29頁/窪田隼人・立命館法学86号8頁/菅野和夫・色川,石川編・最高裁労働判例批評〔2〕民事編394頁/糟谷正彦・教委232号34頁/中川哲男・ジュリスト448号120頁/中川哲男・法曹時報22巻6号1241頁/長山忠雄・地方公務員月報82号53頁/片岡昇・民商法雑誌63巻3号458頁
判決理由  賃金支払事務においては、一定期間の賃金がその期間の満了前に支払われることとされている場合には、支払日後、期間満了前に減額事由が生じたときまたは、減額事由が賃金の支払日に接着して生じたこと等によるやむをえない減額不能または計算未了となることがあり、あるいは賃金計算における過誤、違算等により、賃金の過払が生ずることのあることは避けがたいところであり、このような場合、これを精算ないし調整するため、後に支払わるべき賃金から控除できるとすることは、右のような賃金支払事務における実情に徴し合理的理由があるといいうるのみならず、労働者にとっても、このような控除をしても、賃金と関係のない他の債権を自働債権とする相殺の場合とは趣を異にし、実質的にみれば、本来支払わるべき賃金は、その全額の支払を受けた結果となるのである。このような事情と前記二四条一項の法意とを併せ考えれば、適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、同項但書によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、同項の禁止するところではないと解するのが相当である。この見地からすれば、許さるべき相殺は、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならないものと解せられる。
 (中 略)
 そこで、本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係に徴すれば、被上告人のした所論相殺は、前記説示するところに適い、許さるべきものと認められ、従ってこれと同旨の原判決の判断は正当として首肯することができる。