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ID番号 01069
事件名 退職金請求訴訟事件
いわゆる事件名 日本電信電話公社事件
争点
事案概要  電電公社職員に対して支払われる国家公務員等退職手当法による退職金につき、これを第三者に譲渡できるか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法11条,24条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金の範囲
賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 直接払・口座振込・賃金債権の譲渡
裁判年月日 1964年2月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ワ) 9287 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集15巻2号141頁/時報364号10頁/法曹新聞193号14頁/訟務月報10巻4号575頁
審級関係 上告審/00972/最高三小/昭43. 3.12/昭和40年(オ)527号
評釈論文 慶谷淑夫・労働法令通信18巻1号17頁
判決理由  〔賃金―賃金の範囲〕
 退職手当は、使用者が労働者に対し、退職時にその永年の勤続に対する報償として支給するものであって、その支給の趣旨、目的が労働の対償としてである点において、扶養手当等他の福祉上の手当と異なるが、その基本的な性格は、一種の贈与である。しかし、その支給が慣行として確立し、法律、労働協約、就業規則、労働契約等においてあらかじめその支給条件が明確にされ、その権利性が付与されるに及んで、本来の賃金同様に法によって保護されるようになり、退職者の退職後の生活を保障するための賃金の後払的な性質を帯びるようになったものであり(したがって、この支給を制限することができるのは、右の基本的な性格からみて当然であるが、その制限は極めて特殊な場合に限る必要がある。)、労働基準法一一条は、かような退職手当をも「賃金」として予定していると解するのが相当である。したがって、国家公務員等退職手当法に基づき支給される退職手当も右法条に、いわゆる「賃金」に該当するというべきである。
 〔賃金―賃金の支払い原則―直接払・口座振込・賃金債権の譲渡〕
 同条項は、労働者の「賃金」が確実にその労働者の支配内に引き渡され、労働者の自由な処分にゆだねられるよう、使用者と労働者との間の直接的法律関係を規制したものであって、労働者がその「賃金」債権を第三者に任意譲渡することまで、したがってまた、右の譲受人に対し使用者が支払をすることまでも禁止した趣旨とは解せられない。このことは、従来労働者の「賃金」が親方や職業仲介者等第三者あるいは親権者や後見人の代理受領により横奪されたり、使用者により一方的に相殺もしくは控除されたりしていた弊害を除去せんとする同条項の沿革的趣旨に照らし、かつ、また、文理上からも明らかである。すなわち、同条項に定める諸原則は、いずれも使用者と労働者との間に法律関係があることを前提として、使用者に対し、労働者以外の者に支払うという事実上の行為を禁止するものであって、その法律関係を離れて使用者と第三者との法律関係を律するものとしての意味をもたないことが文言上明らかである。
 もっとも被告の主張するように、労働者の「賃金」は、労働者の生活を支える重要な財源である。したがってもし、その任意譲渡が許されるとするならば、労働者およびその家族の生活は保障されない場合も考えられるのであるが、しかし、この場合における保護を民法上の規定による保護にのみゆだねるのでは十分でなく、弊害の方が大きいというのであれば、やはり、当該法律の明文をもって、その譲渡を禁止すべきであり、かような規定がないのに右条項をもって「賃金」の譲渡を禁止する趣旨を包含すると解するのは、その社会政策的意義を考慮してもなお、諸法の調和を旨とする法解釈として行きすぎであるというべきである。のみならず、国家公務員等退職手当法に右のように禁止規定を設けなかった理由が、そもそも同法による退職手当が国家公務員共済組合法、公共企業体職員等共済組合法による長期給付金と相補う関係にあり、その長期給付金について譲渡禁止の規定(前者法四九条、後者法二九条)を置くことによって国家公務員等の最少限度の生活が保障されるとしたものであることを合わせ考えれば、なおさらそうであるといわなければならない。その他譲渡禁止の明文の規定がなくても、性質上当然にその譲渡性を奪わなければならない実質的な理由は、見出せない。