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ID番号 01115
事件名 従業員たる地位確認請求事件
いわゆる事件名 橋元運輸事件
争点
事案概要  競争会社の取締役に就任していることを理由として就業規則にもとづき懲戒解雇された従業員らの内一名が解雇の効力を争って従業員たる地位確認を、他の二名が退職金の支払を請求した事例。(請求一部認容)
参照法条 労働基準法89条1項3号の2,9号
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 二重就職・競業避止
裁判年月日 1972年4月28日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (ワ) 2516 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 時報680号88頁/タイムズ280号294頁
審級関係
評釈論文 高木紘一・判例評論171号36頁/小西国友・ジュリスト543号146頁
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―二重就職・競業避止〕
 元来就業規則において二重就職が禁止されている趣旨は、従業員が二重就職することによって、会社の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であり、あるいは従業員の会社に対する労務提供が不能若しくは困難になることを防止するにあると解され、従って右規則にいう二重就職とは、右に述べたような実質を有するものを言い、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解するのが相当である。
 (中 略)
 しかし、訴外Aは被告の取締役副社長に在任中に同一業種の別会社を設立することを企て、これを実行したのであり、原告らは訴外Aの右企てを同人から告げられ、その依頼を受けて訴外会社の取締役に就任することにより右企てに参加したものであること、訴外Aが別会社設立を理由に解任された後も、これを知りながら、いぜんとして取締役の地位にとどまり辞任手続等は一切しなかったこと、訴外Aは被告から解任された後は訴外会社の経営に専念していたのであり、訴外Aと原告らとの前記のような間柄からすれば、原告らは、訴外Aから訴外会社の経営につき意見を求められるなどして、訴外会社の経営に直接関与する事態が発生する可能性が大であると考えられること、原告らは被告の単なる平従業員ではなく、いわゆる管理職ないしこれに準ずる地位にあったのであるから、被告の経営上の秘密が原告らにより訴外Aにもれる可能性もあることなどの諸点を考え併せると、原告らが被告の許諾なしに、訴外会社の取締役に就任することは、たとえ本件解雇当時原告らが訴外会社の経営に直接関与していなかったとしても、なお被告の企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であるというべきである。
 してみると、原告らの訴外会社取締役就任の所為は被告就業規則第四八条四号または七号に該当するというべきであるから、これを理由としてなされた本件解雇は有効である。
 〔賃金―退職金―懲戒等の際の支給制限〕
 もともと懲戒解雇は、経営秩序違反を理由としてそれに対する制裁の意味で通常解雇についてみとめられる利益である退職金の支給をその一部又は全部について停止しようとするものであり、現に《証拠略》によれば、被告の退職金規定七項は「次の各号に該当し退職する者は、支給額を減額もしくは支給しない」と規定し、その四号に「懲戒により解任されたもの」と規定していることが認められる。
 このような懲戒解雇における退職金支給についての制限規定は、退職金が功労報償的性格を有していることに由来すると考えられる。
 しかし退職金は、賃金の後払的性格をも帯有していることは否定できないから、たとえ右制限規定の具体的適用が、就業規則上使用者の裁量に委ねられているとしても使用者の被懲役解雇者に対しなす右具体的適用は労基法の諸規定やその精神に反せず、社会通念の許容する合理的な範囲においてなされるべきものと考える。
 この見地からすると、退職金の全額を失わせるに足りる懲戒解雇の事由とは、労働者に永年の勤続の功を抹消してしまうほどの不信があったことを要し、労基法二〇条但書の即時解雇の事由より更に厳格に解すべきである。
 (中 略)
 そこで右原告両名の本件解雇に至るまでのすべての経緯を勘按すると原告らのなした所為は原告らが一六年余に亘り被告に勤続した功を一切抹殺するに足る程の不信行為とは言えないから、所定退職金額の六割をこえて没収することは許されないと解するのが相当である。