全 情 報

ID番号 01118
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 福岡県魚市場事件
争点
事案概要  競業会社の設立に関与したとして管理職に対して、無断欠勤により業務に支障をきたしたとして社員に対して、それぞれなされた懲戒解雇及び退職金不支給につき、退職金の支払を求めた事例。(請求一部認容)
参照法条 労働基準法89条1項3号の2,9号
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1981年2月23日
裁判所名 福岡地久留米支
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ワ) 39 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例369号74頁/労経速報1093号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―退職金―懲戒等の際の支給制限〕
 被告会社では、昭和五二年一〇月一日以降給与規定に基づいて退職金が支払われており、これが給与制度の一環として理解されてきたことにかんがみれば、被告会社において支給される退職金は、労働者の長年の勤労に対する功労報償的性格のみならず、賃金の後払的性格をも帯有するものと解すべきであるが、被告会社の従業員は前記給与規定二四条但書の事項をも労働契約の内容としているものとみるべきところ、右規定によれば、被告会社において、従業員を懲戒解雇にすることとし、その者に退職金を支給しない旨の決定がなされ、その旨の通知がなされたときは、その者に対する退職金発生の条件はみたされないから、その者の被告会社に対する退職金債権は発生するに由ないものというべきであり、わが国の現状に照せば、そのように解しても右規定が公序良俗に反するものとはいい得ない。
 そして、被告会社役員が昭和五三年八月一九日原告Xを懲戒解雇に付する旨及び同原告に退職金を支給しない旨の決定をし、即日その旨同原告に通知したことはすでに説示したとおりであるから、同原告の被告に対する退職金債権はついに発生するに至らなかったものといわねばならない。
 いま仮に百歩を譲り、前記給与規定二四条但書を前記のように解した場合、この規定が公序良俗に反するものとなるとしても、右規定は、懲戒解雇の場合で、しかも、その者に長年の勤続の功を抹殺してしまうほどの不信行為があった場合にまで退職金を支給しなければならないものと定めた趣旨とは解し得ないところ、同原告の懲戒解雇の事情はさきに説示したとおりであって、同原告の前記所為は、被告会社の職場の秩序を乱し、その信用を失墜させ、ひいては被告会社Yの企業としての存立すら危うくしかねないものであって、被告会社に対して著しく背信的なものであり、当時同原告が同市場の課長という要職にあったことをも勘案すると、同原告の二五年近くにわたる勤続の功すらも抹殺してしまう程の不信行為と言うべく、被告がこのように認めて退職金を支給しないことにしても、給与規定上委ねられた使用者の裁量権の範囲を逸脱したものとは解し得ず、また、労働基準法の諸規定やその精神に反するものとも考えられない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務懈怠・欠勤〕
 同原告らの右所為が懲戒解雇に値するものであるか否かについて考えるに、先に認定したとおり、同原告らの無断欠勤によって被告会社就中被告会社Yのせり業務に支障を来たしたといっても、現実にはせり業務を停止しあるいはこれを縮少せざるを得ないような事態にまでは立到っておらず、せいぜい、代行したせり人が経験不足のためにせり業務が若干延引し混乱したという程度の影響が生じたに過ぎないものであるし、また八月二二日以降の同原告らの無断欠勤については先に認定したような事情(従前、被告会社においては、従業員が退職願を提出したのち二週間の出勤をしないまま円満に退職した事例が少からずあり、また同原告らは、就業規則に関する知識が乏しかったこともあって、退職願を提出すれば、直ちに退職の効果が生ずるものと誤信していた。)もあり、これらの事情を勘案すると、同原告らの所為は、何らかの懲戒事由に該当するとしても、いまだ懲戒解雇に値する程のものではなく、結局、被告の主張する就業規則所定の懲戒解雇事由のいずれにも該当しないものと認められる。