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ID番号 01168
事件名 未払賃金等請求、過払賃金返還請求事件
いわゆる事件名 壷阪観光事件
争点
事案概要  割増賃金及び附加金の支払を求めた事例。
参照法条 労働基準法32条,37条,114条,115条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 賃金請求権と時効
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 1981年6月26日
裁判所名 奈良地
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ワ) 101 
昭和55年 (ワ) 20 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 時報1038号348頁/労働判例372号41頁/労経速報1105号11頁
審級関係
評釈論文 松田保彦・ジュリスト783号124頁
判決理由 〔賃金―賃金の支払い原則―賃金請求権と時効〕
 被告は「A労働組合」なるものは、労働組合法上の労働組合ということはできず、従って時効中断の効果が要求書の作成名義人であるBに対して生ずることはあっても他の原告らに対しては生ずることがない旨主張する。
 (中 略)
 しかしながら、右組合が労働組合法上の適式の労働組合といえないとしても、前示の未払賃金支払をめぐる労使間の交渉経緯等に照らせば、前示要求書は、少くとも未払賃金の支払を求めたものとして、被告において知りまたは知りえたすべての労働者が、右目的の下に一致団結し、同一の意思形成をしたうえこれを書面としたものであると認めることができ、その意思形成に関与した原告らを含む全員の連名に代えて、便宜上代表者たる委員長名義が使用されたにすぎないものと認められるから、このような場合には代理又は代表の法理に徴して、右文書の提出によって得られる法律上の効果(未払債権の催告)も、基本となる意思形成に関与した者の全員につき生ずるものと解するのが相当である。
〔賃金―割増賃金―割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 (一)労働基準法(以下「法」という。)三七条一項は、時間外、休日及び深夜労働の割増賃金につき、使用者は、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払うべき旨を定め(同法施行規則二〇条により、深夜労働に対しては五割増以上の率とされる。)、法三七条二項には、「前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他命令で定める賃金は算入しない。」と定め、さらに右法文をうけて同法施行規則二一条は、割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金(除外賃金)として、一、別居手当、二、子女教育手当、三、臨時に支払われた賃金、四、一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金の四つを掲げている。
 ところで、これらの六項目の除外賃金は、規定の性質上限定列挙と解すべきであり、また具体的に支給されている各種手当や奨励金が右に該当するか否かの判断にあたっては、右諸手当等の名目のみにとらわれず、その実質に着目すべきであって、名目が前記除外賃金と同一であっても労働者の一身的諸事情の存否や労働時間の多寡にもかかわらず一律に支給されているものについては除外賃金には該当しないものというべきである。けだし、使用者が除外賃金の名目を付することによって、容易に除外項目となしうるものとすれば、単位時間(又は日数)あたりの割増賃金を名称一つで不当に廉価に算定しうることとなり、所定労働時間(日)よりも高率の賃金を支払うべきことを定めた割増賃金制度の趣旨を没却することとなるからである。
 (二)右観点から本件係争の各項目につき、除外すべきか否かを判断すると、前記認定事実によれば、家族手当及び通勤手当については、原告ら各自の個別的事情にかかわらず、無条件で一律に一定額を支払われていたものであり、これら手当は固定給部分の単位時間当り賃金額を当然に増大・填補する意味合いを持つものであって、その名目にかかわらず、前記除外賃金には該当しないものと解され、また乗客サービス手当は、前記除外賃金のいずれにも該当せず、一定の不行跡がない限り、原則として支給されていたものと解されるから、前記家族手当及び通勤手当と同様、固定給部分の割増賃金の基礎となる賃金に算入されるべきである。さらに特別報奨金は、前記認定事実によれば、一か月の総水揚高が三七万円に達した労働者に対し、一律に一定額を支給されたものであって、前記除外賃金のいずれにも該当しないことが明らかであり、歩合給部分の単位時間あたりの賃金額を填補する意味合を持つものとして、歩合給部分の算定基礎賃金に当然算入されるべきものと解される。
〔雑則―附加金〕
 附加金の有する制裁的性質に徴すると使用者が法一一四条の附加金の支払を免れるためには、遅くとも、労働者がその支払を求めて訴えを提起するまでに、未払賃金の弁済または供託を行なわなければならないものと解すべきである。なぜなら、労働者が未払賃金及び附加金の支払を求めて提訴したのちに使用者が未払賃金の弁済等をした場合にもなお附加金の制裁を免れるものとすれば、自ら賃金等の支払を遅延した使用者に対しては何らの制裁的効果がないのに対し、訴訟提起を余儀なくされるまで賃金等の支払を受けられなかった労働者の不利益は何ら救済されることがないという著しい不公正を生じ、附加金の制裁によって、使用者による自発的な賃金等の弁済を促進するという法意が没却されることになるからである。よって、被告が原告らの附加金請求に対応する期間の未払賃金を訴訟提起後供託したとの一事をもってしては附加金の支払義務を免れることはできないものというべきである。