全 情 報

ID番号 01218
事件名 超過勤務手当等請求事件
いわゆる事件名 島根県教組事件
争点
事案概要  学校長の指示に従い通常の勤務時間を超えて修学旅行、クラブ活動指導等に従事した公立学校教職員らが、超過勤務手当と附加金の支払を求めた事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法37条
学校教育法28条3項
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 違法な時間外労働と割増賃金
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 教職員の勤務時間
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 1971年4月10日
裁判所名 松江地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ワ) 40 42 
裁判結果
出典 労働判例129号35頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―割増賃金―違法な時間外労働と割増賃金〕
 原告らに対しそれぞれの校長が本件各超過勤務の如き超過勤務を命じたとしても、その命令は権限に基づかない違法なものであるといわざるを得ない。
 しかしながら右命令が違法であるからといって、かかる超過勤務につき超過勤務手当請求権が発生しないとすべきものではない。すなわち、本件各校長は校務を掌り、原告ら教員を監督する権限を有する(学校教育法第二八条第三項、第四〇条、第五一条)のであるから、その勤務につき指示命令をなし得る権限を有する地位にある者というべく、また成立に争いのない乙第一四号証の一により認められるように他県では教員の任命権者である県教育委員会が入学考査等に関して校長に超過勤務を命ずる権限を委ねていた例もあるくらいであるから、(中 略)。
 原告ら教員としては本件各校長から超過勤務を命ぜられればその命令が客観的に明白に無効である場合以外には、校長に法律上の権限があるか否かにかかわらず、事実上はその命令に従って超過勤務をしなければならない立場にあるといわざるを得ない。そして、このように校長の勤務命令に事実上の拘束力が認められることに、労働基準法第三七条の立法趣旨が使用者に対して時間外労働および休日労働に対する割増賃金の支払いを強制することにより間接に同法第三三条、第三五条の労働時間、休日の規定が遵守されることを担保しようとするところにあることをあわせ考えると、その超勤命令が法律上の根拠および財政上の措置のない不適法なものであっても、これに従ってなした超過勤務に対しては超過勤務手当を支払わなければならないと解するのが相当である。
 〔労働時間―労働時間の概念―教職員の勤務時間〕
 被告らは、教員にはその職務内容ならびに勤務態様の特殊性から、超過勤務なる概念がなじまないと主張するので考えるに、なるほど教員の職務内容は授業だけではなく、授業時間外においても児童、生徒の指導、研修、諸行事、校務等極めて広範囲にわたり、又夏季、冬季、学年末には特有の休業日があって登校しない場合もあり、他の職種ほど勤務の時間、場所について拘束されておらず、従って労働時間の算定が困難であることは否定できない。しかしながら、原告ら教員についても前記一のとおり一週間の勤務時間が四四時間と定められ、これが割振られて毎日の勤務時間が定められている以上、これを超えて勤務し、かつ、その勤務した時間が算定できる場合には、当然に超過勤務として取扱われるべきであり、右職務内容の特殊性、および一般的に労働時間の算定が困難であるというだけで超過勤務の概念を否定しなければならないわけのものではない。
 〔雑則―附加金〕
 超過勤務手当支払の債務不履行に対して附加金の制裁があるからといって、民法第四一二条、第四一六条、第四一九条により生ずる遅延損害金が発生しないと解すべき根拠は見出されないが、附加金に対する遅延損害金は次の理由により裁判所が附加金の支払を命ずる判決を言渡した日の翌日から発生するものというべきである。すなわち、附加金は違反行為に対する民事的制度たる性質を有するものであり、裁判所において諸般の事情を考慮し、数量によってその支払を命じるものであるから附加金支払義務は使用者が特定の義務を履行しない場合に法律上当然に発生するものではなく、労働者の請求により裁判所がその是非を判断しその支払を命ずることによって、はじめて発生するものと解するのが相当であるからである。よって附加金については、訴訟提起による請求の時(具体的には訴状送達の日の翌日)からではなく、裁判所がその支払を命ずる判決を言渡した日の翌日から遅延に陥るものと解するのが相当である。