全 情 報

ID番号 01225
事件名 処分取消等請求事件
いわゆる事件名 静内郵便局事件
争点
事案概要  未配達郵便物を完配するための超過勤務命令を拒否した郵政職員らが、超勤命令拒否、勤務欠如を理由として、戒告処分、訓告を受けたので、戒告処分の取消し、戒告処分、訓告により受けた精神的損害に対する慰謝料、および勤務欠如にもとづく賃金未払分の支払を請求した事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法32条,36条
体系項目 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務
裁判年月日 1975年2月25日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (行ウ) 3 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集26巻1号26頁/時報787号116頁/タイムズ328号344頁/訟務月報21巻5号996頁
審級関係 控訴審/00428/札幌高/昭54. 1.31/昭和50年(行コ)2号
評釈論文 加藤俊平・ジュリスト621号128頁/石橋主税・労働判例240号14頁
判決理由  〔労働時間―時間外・休日労働―時間外・休日労働の義務〕
 そこで前示観点からすれば、前記時間外協約は一応労働組合対郵政省という対等の立場で締結されたものであり、かつ右協約を締結することが労働組合に強制されていたわけではなく、しかも右時間外協約は郵便事業の特殊性により時間外労働が必要かつ不可欠であることを考慮し、やむを得ない場合に限りこれを認めるものであって合理的な合意であることは明らかである。
 (中 略)
 昭和三六年二月二〇日郵政省就業規則が定められ、そこにおいて右協約に副う旨の規定が設けられてあることが認められる。そしてなお、《証拠略》によれば、昭和四二年一一月一三日静内郵便局長Aと全逓日胆地方支部長Bとの間で「時間外労働および休日労働に関する協定」(いわゆる三六協定)が締結され、そこにおいて殊に、「被告静内郵便局長は、郵便の業務が著しくふくそうして利用者に不便を与えると認められるときおよびその他急速に処理を要する業務の渋滞を防止するためやむを得ないとき等特定の場合には、所属職員に労基法第三二条もしくは第四〇条に定める労働時間を延長することができることおよび右時間外労働を命じ得る時間数は昭和四二年一一月一三日から同月一一月三〇日までの間において一日二時間、期間中一五時間とする」旨の規定が設けられていることが認められ、右認定を妨げる証拠はない。
 しかして原告らが右労働協約および就業規則と異る労働契約を結んだ証左はなく、弁論の全趣旨によれば、かえって原告らは右就業規則のもとでこれを容認して就労していたことが認められる。そして、本件各超勤命令が出されたのは、前記認定のとおり被告ら主張の各原告が多数の郵便物を持戻ったためであり、これは前記時間外協約第二条にいうやむを得ない場合(同条二項一号によれば郵便、為替、貯金、保険、年金、電信および電話の各業務がふくそうして利用者に不便を与えると認められるときはやむを得ない場合に該当する。)であるということができる。
 また本件各超過勤務命令のうち昭和四二年一一月二二日以外の命令は就労時間の四時間前に通知がなされなかったことは前記認定のとおりであるが、前記時間外協約第三条においても通知時間に関しては原則を定めたものであり、あらかじめ予測しえない事態が生じたような場合にまで右原則を貫く必要はないものと解すべきところ、前記各超過勤務命令がなされるに至った経緯については前記認定のとおりであり、使用者側があらかじめ予測することは不可能であったと認められるので、そのような場合にまで就労四時間前の通知を必要と解するのは不合理であり、右各命令が就労四時間前になされなかったとしても、適法と解すべきである。
 以上の事実に基けば、本件各超勤命令は適法なものであり、原告らはこれにより時間外労働義務を負うにいたったものといわなければならない。
 〔労働時間―時間外・休日労働―時間外・休日労働の義務〕
 右のように労基法と異なる定めをした労働協約が無効ではないとしても、右協約からただちに労働者が時間外労働義務を負担するにいたるか否かは別問題である。
 けだし、労働組合は時間外労働の条件については使用者との団体交渉により労働協約を締結することはでき、その効果としてそれが各個の労働者に対しても規範的効力を及ぼすものというべきではあるが、それは労働条件といういわば労働義務の枠組を設定するに止り、それ以上に各個の労働者に時間外労働をなすべき義務自体をも負担させるものではないというのが相当であるからである。従って、各個の労働者が時間外労働義務を負担するにいたる根拠は、あくまで、その意思表示にあるものというべきであり、しかるときは右労働協約の存在を前提とし、これに副う就業規則および労働契約の存するときは、ここにはじめて各個の労働者は時間外労働義務を負担するにいたるものということができ、しかして必ずしもその都度の合意による必要はないものと解するのが相当である。