全 情 報

ID番号 01227
事件名 解雇意思表示の効力停止仮処分申請控訴事件
いわゆる事件名 愛知機械工業事件
争点
事案概要  試用期間を延長して雇用されている夜間大学生が、時間外労働にあたる早出勤務に再三遅刻している等を理由として解雇されたので解雇の意思表示の効力停止、賃金支払の仮処分を申請した事例。(一審 申請認容、当審 原判決取消、申請却下)
参照法条 労働基準法2章,89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 試用期間の長さ・延長
労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
裁判年月日 1976年9月30日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ネ) 98 
裁判結果 原判決取消
出典 労働判例263号28頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約―試用期間―試用期間の長さ・延長〕
 被控訴人は本件解雇が遅刻が多いという理由で三か月の試用期間の延長の反覆継続のあげくにその延長事由と同一のやはり遅刻が多いという事由をもってなされたので不当であると主張する。
 しかしながら、(証拠略)よると、「試用期間中従業員として不適当と認められる者は解雇できる」(就業規則五条)とだけあって、試用期間の延長については就業規則上何ら規定がないところ、控訴会社では人事管理政策上「改善の見込が将来にわたり期待される場合」や求人先である学校側から気長に見てくれとの要望等も考慮して、直ちに雇用契約を解除せず当人の利益のため慣行的に試用期間(三か月)の延長を図ってきたこと、本件は控訴会社が被控訴人を採用後、二年間にわたり勤務成績不良を繰返して注意し、反省を求めてきたが、被控訴人に反省の色が見られず、一向に改善しようとしないため、遂に改善の見込がないものと判断し、職場からの排除に踏み切ったことが認められるから、これらの措置に何ら不当はない。
 (中 略)
 前記の如く控訴会社としては二年間にわたり被控訴人の仕事振りを辛抱強く観察してきたけれども、被控訴人に一向に反省ないし改善のあとが見られず、他に被控訴人を稼働させるに適した職種、職場も容易に見出し得ないのでやむを得ず本件解雇に及んだものと認められる。
〔労働時間―時間外・休日労働―時間外・休日労働の義務〕
 被控訴人は、時間外労働義務違反は懲戒処分の対象にはなり得ない旨主張するが、基本的労働契約に基づく労働時間を超える時間につき労働義務を負うか否かについては、所定内労働時間におけると異なり、更に別個の合意ないし労働契約を要するとしても、一旦右合意により時間外労働義務を負担するに至った以上は、他に特段の事由がない限り労働義務の性質自体としては、所定内労働時間と何ら異ならないものと解するのが相当である。また、被控訴人は時間外労働を「遅刻」というのは理論的に不当であると主張するが、早出勤務の出勤時間に一分でも遅れた場合が「遅刻」であることに変りなく、要は右遅刻に正当な事由があるか否かということである。被控訴人の場合、右遅刻の基本的原因は前記のように「朝眠くて起きられない」と自認するとおりであり、その事情、原因が夜学通学に発するからといって正当化されるものではない。
〔懲戒・懲戒解雇―懲戒解雇の普通解雇への転換〕
 本件は、控訴会社が被控訴人の懲戒解雇該当行為を理由として普通解雇したものであるが、就業規則中に懲戒解雇条項と普通解雇条項とがある場合、懲戒解雇が普通解雇に比して労働者に不利であること等から、懲戒解雇の事由となる行為について普通解雇を行うことは自由であるというべきである。してみると、問題は前記認定の事由が解雇に値するか否かということである。
 前記認定のように、本件の場合、被控訴人の早出勤務における遅刻の頻度、回数とも非常に多く、上司から再三注意され、前記のように早出勤務に就くことを約しながら、合理性のない事由によって無断遅刻を反覆し、その回数も減少しなかったのみならず、昭和四七年に入ってからはむしろ悪化したものとさえ窺えるのである。しかも被控訴人は自己の遅刻によって職場の上司、同僚が迷惑を蒙ることを承知していたのに、協調性に欠けこれらの点を考えない傾向があり、上司からの注意に対しても日が立つにつれ何を聞いても答えないとか、沈黙してしまうといった無気力ないし無責任な態度に変ってきている。右の事実を併せ考えると、被控訴人の所為は控訴会社の職場秩序を甚だしく乱したものといわざるを得ず、このように職場秩序を乱した被控訴人は、社会人として、企業に働く人間としての適格性を著しく欠くものであり、前記就業規則六三条二号、四号により懲戒解雇に値するものといわざるを得ない。
 しかして、控訴会社は本件解雇は直接には就業規則七〇条三号による通常解雇である旨主張しているところ、同条一号には「已むを得ない業務上の都合によるとき。」とあり、使用者側における事情による就労不能の状態にある場合であり、同条二号には「精神若しくは身体に故障があるか又は虚弱、老衰、疾病のため職務に堪えられないと認められたとき。」とあって労働者側において事実上就労に堪えない場合、同条三号には「その他前各号に準ずる程度の已むを得ない事由があるとき。」とされているので、本件の場合は、就業規則七〇条三号の通常解雇事由にも該当するものというべきである。