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ID番号 01328
事件名 懲戒処分無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 東洋鋼板事件
争点
事案概要  休日出勤命令を拒否したことを理由として減給処分とされた労働者がその効力を争った事例。(原判決取消、請求認容)
参照法条 労働基準法2章,89条1項9号
体系項目 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務
労働時間(民事) / 法内残業 / 残業義務
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1973年9月25日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (ネ) 279 
裁判結果 (上告)
出典 時報724号86頁/タイムズ301号199頁
審級関係 上告審/01831/最高二小/昭53.11.20/昭和49年(オ)60号
評釈論文 奥山明良・ジュリスト569号138頁/横井芳弘・労働判例186号16頁/横井芳弘・労働法学研究会報1036号1頁/深山喜一郎・判例評論186号26頁/川口実・法学研究〔慶応大学〕47巻10号104頁/野沢浩・労働法律旬報849号31頁
判決理由  〔労働時間―時間外・休日労働―時間外・休日労働の義務〕
 〔労働時間―法内残業―残業義務〕
 法定外休日労働について、就業規則労働協約および労働契約において、日時、労働内容、労働すべき者が具体的に特定されている場合には、会社からの休日出勤命令をまつまでもなく、そのとおりの休日労働義務が生じ、その後において労働者が一方的にこれを消滅させることはできない。
 しかし、このように具体的に特定しないで、例えば先に説示したとおり、「業務の都合上已むを得ない場合に、労働組合との合意があるときには、休日労働を命じうる」との概括的一般的な労働義務が定められているにすぎず、右の労働組合との合意の内容も、半年間の全法定外休日に全労働組合員に休日労働を命じうると言うにすぎないときには、会社の出勤命令によってはじめて休日労働義務が具体的に生じるものと解すべきである。ところで、原審証人Aの証言によれば被控訴人会社の経営上、受注量と納期に即応して生産計画を流動的に変化させこれに応じて操業率を同様に変化させる必要があるため、労働組合との休日・時間外労働協定も或る程度抽象的にするほかはないことが認められ、この事実からすれば、先に認定した本件敬老の日を含む半年間の休日労働協定も、その間の法定外休日に組合員に出勤を命じうるとの趣旨にすぎないものと解される。
 このような場合、業務命令により法定外休日労働を命じられた労働者は、休日を突然奪われる結果になるが、労働者にとっては、法定外休日であっても、休日について重要な社会的個人的生活利益を有し、例えば休日の有効利用のため事前に計画をたてて準備をし、一週間の生活設計をたてることもあるのであるから、休日を突然奪われることにより、多大の損失を受け、それが労働者にとり無視し得ない程度に至ることもありうることは、充分考慮されなければならない。そうだとすれば、前記乙第一号証によって認められる本件就業規則第二四条第三項(それが控訴人と被控訴人会社との間の労働契約の内容となっていることは、先に説示したとおりである。この「休日出勤を指定された者が出勤しない場合は欠勤として取扱う。但し、右の者が出勤しないことについて已むを得ない事情があると所属係長において、原則として事前に、認めた場合には、この限りではない。」旨の指定は、単に字義どおりに解する訳にはいかない。即ち、右に説示したところと、更に、出勤しないことについての已むを得ない事情があるか否かの判断は、右の規定によっても所属係長の専恣に委ねられているとは解されないところからすれば、右但書の規定は、特定休日の出勤命令を受けた労働者は、その休日に出勤しないことについて已むを得ない客観的事情があるときは、右休日労働義務を免れることができる旨定めたものと解すべきである。なお、その場合であっても、休日労働義務を免れることは労働者にとり利益であるから、これを受けるか否かはその自由意思にかからしめるべきであってその旨の意思表示によりはじめて休日労働義務が消滅すると解すべきである。次に右意思表示の方法であるが、使用者は、休日労働義務の存否を早期に確定し労働義務あるものにその履行をさせなければ、休日労働義務をわざわざ就業規則、労働契約で定めた意味がなくなる。その早期確定のためには、その労働者が自ら已むを得ない事情を告知することが公平の観念に合致するし、労働者からの右告知を要しないとすれば、使用者は勢い労働者に右告知を求め無用の摩擦を招く結果となる。してみれば、当該労働者は、休日労働拒否の意思表示に際し、右の已むを得ない事情を告知しなければならないものと解すべきである。
 (中 略)
 被控訴人会社が控訴人に対し、本件振替休日に労働を命じるについては、業務の都合上已むを得ないものがあったと言わねばならない。
 (中 略)
 被控訴人会社が控訴人に対し、右同日の休日労働を命じるにつき、労働組合との協定と合意を経ていると言わなければならない。
 (中 略)
 先に認定したところによれば、控訴人に対し、B係長が事前に休日出勤を命じたのであり、前記乙第一号証によって認められる就業規則第二五条の定める手続は、効力要件ではないと解されるから、本件出勤命令は右就業規則の規定に照らしても効力に欠けるところはない。
 (ホ)結局、本件出勤命令は、適法かつ有効であり、控訴人に対し休日労働義務を負担させるに足るものであるところ、控訴人は、右休日労働拒否にあたり出勤できない事由を告げなかったから、右休日労働義務を消滅させることはできないと言わねばならない。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒権の濫用〕
 以上述べたところをはじめ本件審理に現れた諸般の事情を総合し、更に、前記乙第一号証によって認められる本件就業規則第七二条(譴責事由)、第七三条(減給、出勤停止事由)ならびに本件懲戒の適用規定である第七四条(懲戒解雇事由)に定める各事由などを、各懲戒処分の段階に応じた職場規律の違反性の程度の客観的尺度として参酌して判断すれば、本件について減給処分にしたのは、控訴人の前示行動の有する反規律性の程度に比べ、著しく重きに失し、企業主に許された裁量の範囲を超え懲戒権を濫用したものであって、無効であると言わねばならない。