全 情 報

ID番号 01361
事件名 給料請求事件
いわゆる事件名 此花電報電話局事件
争点
事案概要  上告人の年休請求に対し被上告人が年休開始後に時季変更権の行使をし欠勤扱いとして賃金カットしたため上告人がその支払を請求した事例。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季指定権 / 「時季」の意味
年休(民事) / 時季変更権
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 年休利用の自由
裁判年月日 1982年3月18日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (オ) 558 
裁判結果 棄却
出典 民集36巻3号366頁/時報1037号8頁/タイムズ468号95頁/訟務月報28巻7号1357頁/金融商事647号47頁/労経速報1113号15頁/労働判例381号20頁/裁判所時報835号2頁/裁判集民135号387頁
審級関係 控訴審/03334/大阪高/昭53. 1.31/昭和51年(ネ)654号
評釈論文 加藤峰夫・日本労働法学会誌60号85頁/角田邦重・判例評論294号62頁/山口広・労働経済旬報1229号21頁/小津博司・公企労研究51号82頁/小田泰機・昭和57年行政関係判例解説171頁/松永栄治・法律のひろば35巻6号43頁/新村正人・ジュリスト770号76頁/新村正人・法曹時報37巻12号249頁/深山喜一郎・季刊労働法124号134頁/西村健一郎・民商法雑誌87巻6号918頁/中西和弘・地方公務員月報229号56頁/中嶋士元也・ジュリスト791号104頁/渡辺章・昭和57年度重要判例解説〔ジュリ
判決理由  〔年休―時季指定権〕
 年次有給休暇の権利は、労働基準法三九条一、二項の要件を充足することにより、法律上当然に労働者に生ずるものであって、その具体的な権利行使にあたっても、年次有給休暇の成立要件として使用者の承認という観念を容れる余地はないものであり、労働者の特定の時季を指定した年次有給休暇の請求に対し、使用者がこれを承認し又は不承認とする旨の応答をすることは事実上存するところであるが、この場合には、右は、使用者が時季変更権を行使しないとの態度を表明したもの又は時季変更権行使の意思表示をしたものにあたると解するのが相当である(最高裁判所昭和四一年(オ)第一四二〇号同四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号二一〇頁参照)。
 〔年休―時季変更権〕
 労働者の年次有給休暇の請求(時季指定)に対する使用者の時季変更権の行使が、労働者の指定した休暇期間が開始し又は経過した後にされた場合であっても、労働者の休暇の請求自体がその指定した休暇期間の始期にきわめて接近してされたため使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったようなときには、それが事前にされなかったことのゆえに直ちに時季変更権の行使が不適法となるものではなく、客観的に右時季変更権を行使しうる事由が存し、かつ、その行使が遅滞なくされたものである場合には、適法な時季変更権の行使があったものとしてその効力を認めるのが相当である。
 本件についてこれをみるに、原審の適法に確定した事実によれば、上告人Xの昭和四四年八月一八日の年次休暇については、同上告人は、当日出社せず、午前八時四〇分ごろ、電話により宿直職員を通じて、理由を述べず、同日一日分の年次休暇を請求し、同日午前九時から予定されていた勤務に就かず、これに対して、所属長であるA課長は、事務に支障が生ずるおそれがあると判断したが、休暇を必要とする事情のいかんによっては業務に支障が生ずるおそれがある場合でも年次休暇を認めるのを妥当とする場合があると考え、同上告人から休暇を必要とする事情を聴取するため、直ちに連絡するよう電報を打ったが、午後三時ごろ、出社した同上告人が理由を明らかにすることを拒んだため、直ちに年次休暇の請求を不承認とする意思表示をしたというのであり、
 (中 略)
 右事実によれば、いずれの場合も、A課長が事前に時季変更権を行使する時間的余裕はなかったものとみるのが相当であり、また、上告人らの前記各年次休暇の請求は、いずれも、後記のとおり、被上告人の事業の正常な運営を妨げるおそれがあったものであるが、同課長は、それにもかかわらず、時季変更権の行使にあたっては上告人らが休暇を必要とする事情をも考慮するのが妥当であると考え、上告人らから休暇の理由を聴取するために暫時時季変更権の行使を差し控え、上告人らがこれを明らかにすることを拒んだため右のような考慮をする余地がないことが確定的となった時点に至ってはじめて、かつ、遅滞なく時季変更権の行使をしたことが明らかであるから、いずれの場合も、本件時季変更権の行使は、休暇の始期前にされなかったものではあるが、なお適法にされたものとしてその効力を認めるのが相当である。
 〔年休―年休の自由利用(利用目的)―年休・利用の自由〕
 原審は、その適法に確定した事実関係のもとにおいて、上告人らの本件各年次有給休暇の請求が就業規則等の定めに反し前々日の勤務終了時までにされなかったため、労働協約等の定めに照らし被上告人において代行者を配置することが困難となることが予想され、被上告人の事業の正常な運営に支障を生ずるおそれがあったところ、上告人らが就業規則等の規定どおりに請求しえなかった事情を説明するために休暇を必要とする事情をも明らかにするならば、被上告人の側において時季変更権の行使を差し控えることもありうるところであったのに、上告人らはその事由すら一切明らかにしなかったのであるから、結局事業の正常な運営に支障を生ずる場合にあたるものとして時季変更権を行使されたのはやむをえないことであると判断したものであって、所論のように、使用者が時季変更権を行使するか否かを判断するため労働者に対し休暇の利用目的を問いただすことを一般的に許容したもの、あるいはまた、労働者が休暇の利用目的を明らかにしないこと又はその明らかにした利用目的が相当でないことを使用者の時季変更権行使の理由としうることを一般的に認めたものでないことは、原判決の説示に照らし明らかである。原審の右判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。諭旨は、原判示を正解しないものであって、採用することができない。