全 情 報

ID番号 01363
事件名 懲戒処分取消請求事件
いわゆる事件名 名古屋鉄道郵便局事件
争点
事案概要  年休の時季指定をしたが時季変更権を行使された鉄道郵便局職員が、当日欠務したため減給一ケ月の処分に付されたのに対し、右欠務は適法な年休取得に基づくものであり右処分は理由がないとして右処分の取消を求めた事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季指定権 / 指定の方法
年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1984年4月27日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (行ウ) 29 
裁判結果 認容
出典 労働民例集35巻2号220頁/労働判例431号68頁/訟務月報30巻9号1702頁
審級関係
評釈論文 阿部則之・昭和59年行政関係判例解説185頁
判決理由  〔年休―時季指定権―指定の方法〕
 年休の時季指定は、労働者がその有する休暇日数の範囲内で具体的な休暇の始期と終期を特定して行なうものであり、二日以上の期間の時季指定がなされてもそれ自体一個の時季指定というべきである。そして、使用者側の意思でこれを任意に分割できるものではない。また、労働者が時季指定をする際に、そのうちの一部に業務の支障があるという場合に備えて、一部でもよい旨の意思を表明するなどして予備的に時季指定をすることも容易であり、さらに、時季変更権を行使された際に、そのうちの一部でも取得できないかを聞いて新たに時季指定をすることも可能である。
 従って、右の点からすると、労働者が始期と終期を定めて時季指定をした場合、労働者の意思がそのうちの一部でもよいということが客観的に窺われる場合のほかは、労働者側からその旨の意思表明(予備的な時季指定)がない限り、当然に一部についての時季指定もなされたとして服務差し繰りを検討しなければならないものと解するのは相当ではない。
 〔年休―時期変更権〕
 思うに、年休の時季指定が競合した場合で、既に時季指定され、かつ、時季変更権を行使しなかったあるいは行使しない旨表明した年休があって、その後に新たな同時季の時季指定がなされたときには、後の年休請求の服務差し繰りをする際に、既に年休を取得している者の期待を尊重し、その優先を認め、これを差し繰りの対象から除外するのは何ら非難されるべきことではなく相当というべきである。右の「やむを得ない事情で予定しない日に諸休暇を付与せざるを得ない場合」とは、少なくとも、年休の変更を検討するという点では、名古屋鉄郵局においても行なわれていた本人の病気、近親者の病気・不幸その他社会通念上やむを得ない事由により年休、特休、病休を付与せざるを得ない場合のことをいうものと解するのが相当である。従って、これは、事業の正常な運営を阻害するものと認めながら休暇を与えるもの(服務差し繰りができなくても与えるもの)であり、事業の正常な運営を阻害するかどうかを判断するため服務差し繰りの検討をするのとは異なるというべきである。
 〔年休―時季変更権〕
 思うに、労働者に休暇の権利が認められ、労基法によれば、第一次的には労働者の意思により年休の時季が決定されるものとしていることからすると、労働者が年休の時季指定をしたときは、使用者において、当該時季に労働力の配置を変更したり代替要員を確保したりして事業の正常な運営を確保するための可能な限りの方法を検討し努力すべきであり、このような努力をしたのにもかかわらず、なお事業の正常な運営が阻害される蓋然性が高いと客観的に判断される場合にはじめて時季変更権を行使することが許容されると解するのが相当である。
 従って、労働者から年休の時季指定がなされた場合、使用者は、労働力の配置変更や代替要員の確保につき、労働協約、就業規則、内規等により行なうことができると定められ、あるいは行なうよう指導されていた方法について逐次検討すべきであり、また、他に容易に検討しうる方法があれば、それについても検討をすべきであり、これらの努力をすることもなくなされた時季変更権の行使は違法と解すべきである。
 (中 略)
 以上のとおり、本件では予備線表勤務者による服務差し繰りが困難であると判断した後、基本線表勤務者についても勤務指定表で一応検討したが、実質的には基本線表勤務者については服務差し繰りがなされなかったものというべきである。すなわち、週休日の者に対しても検討すべきであったところ、これを除外し、また非番日の者に対してもどうせ反対されるであろうということで事情聴取すらしなかったのであるから、これらの点で服務差し繰りの努力を怠ったものといわざるを得ない。
 (中 略)
 以上によれば、本件時季変更権の行使は違法であり、従って右時季変更権の行使が適法であることを前提としてなされた本件懲戒処分も違法であり取消を免れないものというべきである。