全 情 報

ID番号 01370
事件名 給与減額分支払等請求事件
いわゆる事件名 国鉄水戸機関区事件
争点
事案概要  年休の申請に対し被告の承認を得ていたところ後に年休が争議行為を目的とするものだったとして欠勤扱いとされ、賃金を控除あるいは過払として返還させられた原告らが、右カット分を請求した事例。(認容)
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 年休利用の自由
裁判年月日 1967年10月11日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和36年 (ワ) 8237 
裁判結果 認容
出典 労働民例集18巻5号980頁/時報495号41頁/タイムズ214号188頁
審級関係
評釈論文 花見忠・ジュリスト398号462頁/花見忠・昭41・42重判解説258頁/川口実・法学研究〔慶応大学〕41巻3号110頁/籾井常喜・判例評論113号19頁
判決理由  〔年休―時季変更権〕
 2 ところで労基法三九条一、二項が使用者は一定期間を継続し、かつ一定割合の労働日を勤務した労働者に対し年次ごとに一定日数の有給休暇を休日のほかに継続または分割して与えなければならないことを規定した趣旨は、労働者に過去の労働による肉体的、精神的疲労を回復させて、労働力の維持培養に資し、併せて健康な最低限度の生活を営ませるため、労働者が賃金の保障を受けながら、他方制裁等の危惧なく、労務から離脱し得ることとするにあるものと思われる。したがって、年休も労務からの開放という点では休日と少しも異らないところ、これに対し賃金の保障があり、制裁の危険がないことの故に労基法がその利用目的に応じて制限を設けたとみるべき政策上の根拠はないから、一般的にいう限り、労働者が年休をいかなる目的、用途に利用するかはその自由に委ねられているものと解すのが相当である。そのように考えると、労働者は年休請求につき、その利用目的を使用者に告知すべき義務はなく、また使用者もその利用目的如何により年休の許否を左右し得べき筋合はない。ただ、使用者にとり労働者にいかなる時季に年休を与えるかは企業の運営上、当然の関心事であって、労働者に、その請求した時季に年休を与えたのでは事業の正常な運営に妨げがあるのに、なおかつ、これを与うべきものとするのは労使間の利害の均衡を失するので、労基法三九条三項の規定は、かような場合には使用者において時季変更権を行使して労働者の請求する時季に年休を与えることを拒否し得ることにしたものと解される。したがって、使用者が労働者に、その請求の時季に年休を付与するか否かの選択は専ら、これにより事業の正常な運営が阻害されるか否かによって決定すべきものといわなければならない(もっとも、使用者が事業の正常な運営を阻害しないと判断して労働者に年休を付与したところ、これにより事業の正常な運営が阻害された場合には、使用者において労働者の詐術等のため、右事態を防止し得なかったというような事情があれば、右条項の趣旨からしても、使用者は、その年休につき単なる欠勤扱いとなし得るものと解するのが相当である。)。そして、この場合、事業の正常な運営の阻害の有無は、その労働者の年休による不就労との因果関係が問題とされるのであるから、その直属する事業場の義務の総体についてみるべきであって、使用者が営む他の事業場の業務とは原則として関係がないものといわなければならない。
 〔年休―年休の自由利用(利用目的)―年休利用の自由〕
 右承認を取消す旨を主張するが、労働者が年休をいかなる目的に利用するかはその自由に委ねられ、使用者もその利用目的の如何により、年休付与を左右し得ないことは前説示のとおりであるから、原告らが、その年休取得により所属の各事業場の事業の正常な運営を阻害するに至るべきことを秘匿したとでもいうのでない限り、年休付与が詐欺によったものということはできない。しかるに原告らの年休取得により右各事業場に業務阻害の事態が生じたといえないことは前説示のとおりであるから、被告の主張は理由がない。