全 情 報

ID番号 01371
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 チッソ事件
争点
事案概要  年休請求に対し時季変更権を行使したが当日欠勤したとして一日分の賃金と年末一時金の減額を受けた従業員らが、右時季変更権は事業の正常な運営を妨げる事情がないのに行使された違法のものである等して賃金および年末一時金の減額分相当額等の損害賠償を請求した事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1970年12月23日
裁判所名 熊本地八代支
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ワ) 149 
裁判結果
出典 労働民例集21巻6号1720頁
審級関係
評釈論文 秋田成就・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕130頁/秋田成就・労働法学研究会報923号1頁
判決理由  以上の認定事実によれば、原告X1のビニレツク係における作業は単純な雑作業であって代替性が強く、また原告X2のガス係における作業は機械の運転ではあるが同様代替性を有し、いずれの場合も被告水俣工場の作業員規模に照らすと、代替者の確保が不可能とは考えられない。のみならず一般に、作業に必要な人員を欠くということが直ちに時季変更権行使の正当な理由となり得ないことはもとよりである。
 しかしながら、被告水俣工場における各職場の人員配置が休暇要員を充分考慮したものであり、原告らの職場においても、いずれも余裕ある人員配置であったこと、および従来このような配置人員の枠内で作業遂行と調和を保ちながら各人が手持ちの慰休を消化して来たことは前認定のとおりである。そうであるとすれば、各職場における当日の作業に必要な人員はまず当該職場においてこれを確保すべきであり、その確保の方法は従前から行なわれて来た通常の方法をもって足りるというべきである。したがってかかる通常の方法をもって必要人員の確保ができず定員を割ることとなる場合には被告就業規則第三五条の「業務の正常な運営を妨げる」場合に該るというべきであり、前認定のような当日の人員確保の必要ならびに欠員補充の困難な事情に徴すると、本件の場合はいずれも原告らの慰休請求に対し時季変更権を行使するのもやむを得なかったものと認められる。
 もっとも、本件の場合当日の作業は下請作業員あるいは連直による補充の結果いずれも予定どおり遂行され、作業遅延などによる損害の発生は認められないけれども、時季変更権行使の要件としての「業務の正常な運営を妨げる」とは、休暇の実現と事業運営との調和を図る制度の趣旨に照らし、現実に業務阻害の結果が発生することまで要するものではなく、その発生のおそれがあれば足りるものと解するのが相当である。
 よって被告の本件時季変更権の行使はいずれも正当である。