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ID番号 01382
事件名 懲戒処分取消請求事件
いわゆる事件名 新潟鉄道郵便局事件
争点
事案概要  鉄道郵便車に乗車して郵便物の区分、積込み、棚卸し等の業務に従事する鉄道郵便局職員につき、請求日における年休権の行使を認めずに、不就労を理由とする懲戒処分(戒告)をなした鉄道郵便局長に対して、当該懲戒処分の取消が求められた事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1977年5月17日
裁判所名 新潟地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (行ウ) 11 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働民例集28巻3号101頁/時報854号112頁/訟務月報23巻5号1007頁
審級関係 控訴審/01387/東京高/昭56. 3.30/昭和52年(行コ)35号
評釈論文 根本眞・公企労研究49号109頁/菅野和夫・ジュリスト674号133頁/郵政省人事局労働判例研究会・官公労働31巻9号46頁
判決理由  〔年休―時季変更権〕
 原告は、当局側が請求者に対し、請求にかかる希望日に年休を付与することができない旨を表明したのみでは、時季変更権の行使があったとはいえず、当局側が予定する他の時季を、日、週、または月をもって指定することが絶対的な要件であると主張しているが、時季変更権の本質が前記のように労働者の請求により原則的に発生する時季指定の形成的効果を阻害する抗弁権にすぎず、したがって具体的事案に応じ、場合によっては使用者が労基法三九条三項但書に掲げる事情の存在を理由として、請求の時季に年休を付与しえない旨の意思表示をなしたのみで足りる点を看過しているものであって採用できない。
 そこで右のような見解に立って本件における当局側の時季変更権の行使の方法を検討するに、原告の本件年休請求に対し、A課長代理らが請求の時季には年休を付与しえない旨を表明したのにもかかわらず、原告があくまでも当初の希望日に年休をとることを望み、時季変更には応じられない旨の態度をとりつづけていたことは前記二2認定のとおりであるから、乗務課当局側が、その予定する他の時季を、日、週、または月をもって通知提案し、請求者たる原告の意向を打診すべき義務は消滅したものというべく、乗務課当局の時季変更権行使の方法そのものは、覚書および休暇規程の前記(一)の各条項に違反しない。
 〔年休―時季変更権〕 原告は、年休を付与することにより多量の未処理郵便物が生じ、当該鉄郵局全体に混乱状況の発生が客観的に認められる場合にのみ、「事業の正常な運営を妨げる」場合に該当すると主張するが、かくては鉄郵局の前記使命はほとんど達成されず、国民の郵便事業に対する期待と信頼は裏切られることとなって相当ではない。
 しかしながら年休はできる限り労働者の請求する時季に付与されるべきであるから、時季変更権の行使が許されるためには、「未処理」またはこれに準ずる「一般事故」の発生が、個別的、具体的、客観的に予想できる事情があることを要し、年休を付与することによって、たとえば当該乗務員が勤務指定を受けていた便に欠員が生じたとしても、残りの乗務員の作業が多忙となるにとどまる場合には、「事業の正常な運営を妨げる」場合に該当しないというべきである。もっとも「事業の正常な運営を妨げる」場合にあたるか否かの判断は事前の判断であり、かつ判断権が法律上は第一次的には使用者に委ねられていることや、多くの場合、使用者は無理をしてでも欠員の補充をしてしまうため、現実に「未処理」または、これに準ずる「一般事故」が発生することは少ないと考えられるから、結局「未処理」またはこれに準ずる「一般事故」の発生の蓋然性をうかがわせる事情が存在すれば足りるというべきである。
 これに反し被告は、厳密に計算された乗務定員一名を欠くことは、一般に業務支障の発生が予想されることとなると主張するが、なるほど前記(六)のように一応の合理性をもって算出された乗務定員を欠き、これを下回る人員で乗務し作業をしなければならない事態は、一般的にはそれだけで業務支障を予想させる有力な根拠と考えられるのであるが、前記(六)のように定員配置算定の基礎となっている標準作業速度には、実態調査によれば約九パーセントの余裕があり、従って標準作業速度より九パーセントたかめて作業をすることを前提とすれば、各便別定員には、取扱郵便物の量に比して余裕のある場合が多いと考えられること、《証拠略》によれば、欠員のまま運行されるに至った場合、乗務している残余の乗務員は互いに欠けた担務を分担するなどして共助共援をするもので、必ずしも「未処理」が生ずるとは限らないこと、「未処理」が生ずる原因は、災害、線路事故等により列車の遅延、運休があって、郵便物が数便集中されて受渡しが行われたような予想できない事態によることが多いこと、取扱う郵便物の量は、年間を通じ時期によって異ることが認められ、また前記(八)(2)のように新鉄局では昭和四八年ごろから欠員のまま運行することが従来に比較し多くなっていること、それにもかかわらず「未処理」が従前に比較しより多く生じたとは認めがたいこと、また残余の乗務員から、多忙負担増等を理由とする苦情などが出された事実が認められないことなどの事情にかんがみると、欠員のままの郵便車の運行は、常に「未処理」を生じさせるとは限らず、これのみをもって「事業の正常な運営を妨げる」場合に該当すると断定することは、硬直にすぎるきらいがある。被告の主張は採用できない。
 (中 略)
 現に《証拠略》によれば、原告が欠乗した二七日の「直秋下り便」二八日の「同上り便」とも、「未処理」またはこれに準ずる「一般事故」は発生していないことが認められ、また右両便とも、乗務した残余の乗務員から一名欠員のまま乗務させられたことについて、多忙等を理由とする苦情の申し出や、原告に対する非難等の事実も認められないのである。
 以上によって明らかなように、原告の指定した七月二七日、二八日の両日に、原告に対し年休を付与することは、労基法三九条三項但書にいわゆる「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとは認めがたい。