全 情 報

ID番号 01383
事件名 給与請求事件
いわゆる事件名 宮崎県事件
争点
事案概要  組合の指令に従って県庁舎での職場放棄闘争にピケ要員として参加するために、年休をとって出勤しなかった出先機関勤務の県職員が、年休権の行使を認めずに賃金カットを行った県に対して、カット分の賃金の支払を求めた事例。(一審請求認容、二審控訴棄却、請求認容)
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 一斉休暇闘争・スト参加
裁判年月日 1978年12月20日
裁判所名 福岡高宮崎支
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ネ) 94 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報924号126頁/タイムズ380号138頁/労経速報1003号27頁/労働判例312号43頁
審級関係 一審/01411/宮崎地/昭50. 7.25/昭和45年(ワ)503号
評釈論文
判決理由  〔年休―時季変更権〕
 また、控訴人は、時季変更権を行使するかどうかを考慮する時間的余裕を与えないような時季指定は、信義則に反し権利の濫用として許されない旨主張する。《証拠略》によると、被控訴人Y1、同Y2、同Y3、同Y4、同Y5は、本件一〇・八闘争の当日である一〇月八日午前九時一〇分ころ、Aを介して時季指定をしたことが認められ、右認定の事実からすると、前記被控訴人らは、その所属する各出先機関の長が時季変更権を事実上行使し難いような時間的余裕のない時季指定をなしたものというべきであるが、しかし、《証拠略》によれば、控訴人県の各出先機関においては、従前、時季変更権が行使された事例はほとんどなく、また職員のいわゆる年休請求の手続は事前ばかりでなく事後的(休暇当日に申請した形式をとる事後申請を含む。)にこれをなすことも事実上容認されてきたのであり、被控訴人らの本件時季指定も手続・方法の点で各出先機関の従前のそれと格別異なるところはない。のみならず、各出先機関の長は、控訴人県当局の指示により本件一〇・八闘争参加のため年休をとると認められた職員については、当該職員が所属する出先機関の事業の正常な運営を阻害する事情が客観的に存在するかどうかを検討することなく、すべてこれを承認しない(時季変更権を行使すること)方針の下に被控訴人らに対処したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。しかして、時季指定に時間的余裕を要求するのは、時季変更権を行使するか否かを判断する時間を使用者に確保するためであるから、控訴人県の各出先機関において時季変更権を行使しうる事情が客観的に存在していたことについて、控訴人において何ら主張、立証をしない本件においては、被控訴人ら所属の各出先機関の長に時季変更権を行使しうるだけの十分な時間的余裕を与えなければならないとする控訴人の主張は理由がない。
 〔年休―年休の自由利用(利用目的)―一斉休暇闘争〕
 2 控訴人は、本件一〇・八闘争が単なる本庁拠点闘争ではなく全庁一斉の職場放棄闘争であって、年休権行使に名を藉り実質は被控訴人らの各所属事業場において指名ストないし部分ストを行なったものであると主張するので判断するに、《証拠略》によれば、本件一〇・八闘争が自治労の第九次賃金闘争の第四波統一行動の一環としてなされたものであり、その直前まで各出先機関において始業時から一時間の一斉職場放棄闘争を決行するようオルグ活動がなされていたこと、被控訴人らによる本件年休の時季指定は、被控訴人らが所属する県職労の指令に基づいてなされたこと、一〇・八闘争の当日、県職労の組合員で本庁前庭の集会に参加した者一〇一名のうち、拠点とされた県庁本庁に勤務する組合員は僅か一四名に過ぎず、その余は衛生研究所、工業試験場、まゆ検定所などすべて各出先機関の職員であること、本庁以外でも佐土原農業試験場においては(被控訴人らが所属する出先機関ではない。)勤務時間に一〇分程度くい込む職場集会がもたれたことなど控訴人の主張に添う事実を認めることができる。しかしながら、他方、前掲各証拠によると、控訴人県当局の組合員に対する事前の警告、説得もあって一〇・八闘争に参加する者が少なく、統一的に各出先機関で職場放棄を行なうことの困難なることが予測されたため、県職労は、一〇・八闘争の直前に至って当初の戦術を転換し、県庁の本庁支部を拠点として同支部においてのみ午前八時三〇分から同九時三〇分までの間、県庁前庭で集会を開くなどして一斉職場放棄闘争を実行し、その他の支部についてはこれを中止して勤務終了後の時間外行動を実施するにとどめることとしたこと、その際、被控訴人ら所属の各支部に対しては、年休をとったうえピケ要員として本庁支部における闘争を支援するよう動員要請をしたこと、右指令は、各支部ごとに若干名(五名程度)の動員を要請するのみで、特定の職種や個人を指定したものでもなければ、支部ないし各出先機関所属の組合員数に応じた一定割合の者の動員を指示したわけでもないこと、さらに、右指令に従って現実に年休の時季指定をなした被控訴人らの担当業務は、道路工夫・自動車運転手等さまざまであるうえ、被控訴人らの指定した年休の終期は各人につき必ずしも一致していないこと、被控訴人らの所属する各出先機関には少ないところで十数名(北諸県福祉事務所、工業試験場都城分場、延岡農業改良普及所、高鍋耕作出張所、油津港湾事務所など)、多いところでは六、七〇名から一〇〇名を越える職員が配置されているが(西臼杵支庁、東臼杵農林事務所、日南土木事務所、宮崎土木事務所など)、被控訴人らはその中の一ないし二名(ただし、宮崎土木事務所のみ五名)という少数の者であって、右各出先機関における職員数からすれば被控訴人らの占める割合はきわめて僅かであること、前記要請に応じた被控訴人らは、いずれも県庁本庁へ赴きピケ要員として本庁支部の争議行為を支援し、本庁前庭の集会に参加しており、被控訴人ら所属の各出先機関では争議行為が行なわれることなく平常どおりの勤務態勢がとられていたこと、以上の事実が認められ右認定を左右するに足る証拠はない。右の事実を総合すると、被控訴人らによる本件年休の時季指定が県職労の指令に基づいてなされたにしても、右指令には控訴人主張の指名ストないし部分ストが通常帯有するところのことさら使用者に与える損害を大ならしめるため組合が随時随所で臨機応変にストを実施するといった性格はみあたらないし、また、被控訴人らの時季指定が被控訴人ら所属の各出先機関における業務の正常な運営を阻害する目的でなされたものとは認め難く、ほかに被控訴人らの本件年休の時季指定をもって各所属出先機関における指名ストないし部分ストであることを認めるに足りる証拠はない。
 (中 略)
 3 ところで、年休の利用目的は労基法の関知しないところであって、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であり、また、労働者がその有する年休の日数の範囲内で、始期と終期を特定して休暇の時季指定をしたときは、客観的に労基法三九条三項但書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり、右の指定によって年休が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解すべきであるが、ただ、休暇をとること自体が争議行為となるような場合には、それは年休の枠外の問題であるから、個々の労働者の休暇請求は本来の年休権の行使とはいえず、これに対し使用者が労基法三九条三項但書により時季変更権を行使するかどうかの問題さえ生じないものというべきである。しかし、被控訴人らの本件年休の時季指定自体が争議行為と認められないことは前記2で認定のとおりであるから、年休の利用目的につき法が何ら関知しない趣旨からすれば、被控訴人らが自己の所属する事業場以外の本庁での争議行為を支援するため年休をとったからといって、当該年休の成否には何らの影響がないものといわねばならない。