全 情 報

ID番号 01419
事件名 未払給与請求事件
いわゆる事件名 福江市事件
争点
事案概要  年次有給休暇の行使に対し、市が右行使は争議行為であり年休の効果は発生しないとして行使の時間相当の賃金の減額支給をしたことにつき、正当な年休権の行使であるとして右賃金減額分の支払を求めた事例。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 一斉休暇闘争・スト参加
裁判年月日 1980年9月26日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ワ) 412 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 労働民例集31巻5号925頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔年休―年休の自由利用(利用目的)―一斉休暇闘争〕
 原告らの不就労は、福江市役所本庁職員二四〇名中の七〇名余が一斉に年休を取ったのであるから、業務の正常な運営を妨げたことは明らかといわざるをえないが、右休暇の利用目的及び内容は、当時文書訓告をめぐって紛争状態であった福江市役所内における市職労の立場として、ストライキ前日に福江市民に対し教宣ビラを配布し市民の理解と協力を得るためになされたのであるから、究極的には被告と対抗関係にある市職労の主張を貫徹することに役立つものであるが、直接的に被告に対し主張を貫徹することを目的とする行為とは解されず、市民を対象とする組合教宣活動であって、右原告らの年休の時季指定も市職労の指令、指名に基づくものでなく、市職労の呼びかけ、要請に応じて、その手続も通常と変わりなく行われ、時季変更もなされなかったのであり、右原告らの不就労が年休に名を藉りた実質的な同盟罷業等の争議行為に該ると認めることができない。
 また、同様にして、右原告らの年休権行使が権利の濫用にあたるとはいまだいいえない。
 〔年休―年休の自由利用(利用目的)―一斉休暇闘争〕
 被告は、右原告らの年休の時季指定の形式による不就労は、それが労働組合の主張を貫徹する目的で、その統制のもとに一斉に行われ、業務の正常な運営を阻害するものであったから、その実質は同盟罷業等の争議行為にほかならず、本来の年休制度の趣旨からはずれるものであって年休は有効に成立せず、右原告らは、右不就労の日または時間についての賃金請求権は有しないものと解すべきである旨主張するので考えるに、年休の利用目的は労基法の関知しないところであり、労働者は自由にその休暇を利用することができ、かついつにでも休暇の時季指定をできるのであって、いつ休暇をとってそれをどのように利用しようが例えば個人的用務に使おうが、組合活動(尤も、争議行為に至らない活動すなわち当局との交渉、組合の情宣活動、諸会合への参加等)に利用しようが全く労働者個人の自由に委ねられているのであって、使用者としては労働者が指定した時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合において、いわゆる時季変更権を行使することができるにすぎないのであるが、労働者の年休権行使の形式による不就労とはいえ、労働者が、その主張を貫徹することを目的とし、そもそも使用者の時季変更権を無視し、集団的に職場を離脱し、業務の正常な運営を阻害するものは、年休をとって職場を離脱すること自体が争議行為となっているから、年休の成立する余地はなく、労働者は不就労の日または時間について賃金請求権を有しないと解するのが相当である。
 右の見解のもとに年休権の行使が実質的な同盟罷業等の争議行為であるか否かの判断に際しては、(1)休暇届提出者の比率、(2)届け出られた休暇の期間、利用内容、(3)現実の業務の正常な運営の阻害の程度、(4)届け出の時期、態様、時季変更権の行使の難易等を考慮して客観的に決すべきものである。
 〔年金―年休の自由利用(利用目的)―一斉休暇闘争〕
 被告は、前同様右原告らの年休による不就労は争議行為にあたるとして年休の効果を否定し、賃金の支払いを拒絶する旨主張するが、前記見解のもとに、右原告らの年休取得による不就労が争議行為にあたるか否かを判断すべきところ、前項5記載の認定事実のもとにおいては、市職労は、不当懲戒処分撤回の目的を貫徹するため、一割休暇戦術をとり、右原告らは、市職労の指名に基づき、祝日をはさんだ連続五日間、半日交替で一〇名余の組合員が順次年休の請求をして職場を離れ、外部団体からの支援者らとともに、常時二〇名ないし三〇名の構成でもって、使用者たる福江市の管理する施設である福江市庁舎内で、住民の出入りも多い玄関ホール脇の一画に、市職労の主張する懲戒処分撤回を貫徹する目的のもとに座り込みを行い、業務の正常な運営を阻害したことが首肯できるので、参加人員が半日毎に本庁勤務の組合員の一割弱であったとして、右原告らの不就労はいわゆる部分ストとして違法な争議行為というべく、したがって、被告が時季変更権を行使していなかつたとしても、被告は、右原告らの年休の効果を否定し、原告らに対し目録(三)未払給与額欄記載の賃金の支払義務はないということができる。