全 情 報

ID番号 01446
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 大宝タクシー事件
争点
事案概要  退職願提出後一四日間正常勤務しなかった者には退職金を支給しない旨の、退職金支給規定に関する労使間覚書に基づき、退職願提出後八日間しか勤務しなかった原告が退職金の一部しか支給されなかったため、その残額と損害賠償の支払を求めた事例。(棄却)
参照法条 労働基準法89条1項3号の2,附則134条
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
年休(民事) / 年休取得と不利益取扱い
裁判年月日 1982年1月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和55年 (ワ) 7412 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集33巻1号142頁/労働判例384号69頁/労経速報1110号3頁
審級関係 控訴審/01092/大阪高/昭58. 4.12/昭和57年(ネ)243号
評釈論文 香川孝三・ジュリスト786号112頁/青野覚・労働判例391号14頁
判決理由  3 右2の就業規則及び覚書の各規定に右各証言を総合すると右2の覚書の規定は、被告において、従業員が予告なしに退職した場合に代りの従業員を採用するまでタクシー業務用自動車を遊ばせる事態が生ずることを防止する必要から設けられた右2の就業規則の規定を実効あらしめるため(右のような就業規則の規定を設けただけでは、退職の予告後に乗務しないことによって、右規定が空文化する可能性が予測される)、労使の合意によって設けられたものであって、その趣旨は、病気や近親者の弔事などで乗務できない場合を除いて、乗務できる状態(正常)であったのに通常(平常)の乗務を実際に七乗務(一四日間)以上しなかった場合には退職金の支払を請求できないというものであることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
 (中 略)
 なるほど、右覚書の規定は、前記2の就業規則の規定とあいまって、労働者の年次有給休暇の時季の指定の自由を制約し、それに違背した場合には、懲戒解雇の場合と同様に退職金請求権を取得せしめないとの制裁をもって右各規定を遵守させている。
 しかしながら、右覚書の規定は、退職日から遡って所定労働日の一四日間に限って年次有給休暇の取得を制約されるにすぎず(退職届出から退職日までに所定労働日が一四日を超えた日数がある場合の退職日から所定労働日の一四日間より前の日数及び退職の場合以外の日については、年次有給休暇の取得について制約しない)、労働基準法三九条三項但書の趣旨及び前記3の事実に鑑み、そのような制約を労使間で合意することが、同条三項の趣旨を没却することになるものとは断じ難いし、しかも、退職日及び退職届出日の設定は労働者において任意に設定でき、かつ、年次有給休暇の取得もそれをも考慮して任意に消化できることも考え併わせると、右のような制約があるからといって、それをもって前記覚書の規定の効力を妨げる事由とは認め難い。