全 情 報

ID番号 01490
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 大阪日日新聞社事件
争点
事案概要  会社により一方的に引き下げられた就業規則の退職金支給基準に従い退職金の支給を受けた元従業員が、右引き下げの効果は本人の同意がなく及ばないとして引き下げ前の退職金支給基準に従えば未払となる退職金の支払を求めた事件の上告審。(上告棄却、労働者勝訴)
参照法条 労働基準法11条,89条1項3号の2,93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 退職金
裁判年月日 1970年5月28日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ツ) 69 
裁判結果
出典 高裁民集23巻3号350頁/時報612号93頁/タイムズ252号175頁
審級関係 一審/01482/大阪地/昭42. 3.27/昭和41年(レ)151号
評釈論文
判決理由  労働基準法第九三条は、就業規則に定める基準に違しない労働条件を定める労働契約を、その部分について無効とし、無効となった部分は就業規則に定める基準によるものと定め、この限りにおいて就業規則に個々の労働契約を修正する効力を認めているに過ぎないのであって、所論のように、同条が就業規則の定める基準を上まわる既存の労働条件についても、これを変更する効力を認めたものと解することはできない。そして、新たな就業規則の作成又は変更によって既存の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されず、ただ、当該規則条項が合理的なものである場合に限って、個々の労働者の同意がなくても、これを一律に適用することができると解すべきである(最高裁判所大法廷昭和四三年一二月二五日判決、民集二二巻三、四五九頁参照)。
 (中 略)
 退職金の法的性格を賃金と解する限り、労働者保護のためその支払確保を期する労働基準法上の保障を受け、全額払(同法第二四条第一項本文)、不払いに対する制裁(同法第二三条、第一二〇条第一項第一号)に関する規定の適用がある外、性質に反しない限り一般賃金同様の保護を受けるものというべきところ、使用者が退職金に関する就業規則を変更し、従来の基準より低い基準を定めることを是認し、その効力が全労働者に及ぶとすれば、既往の労働の対償たる賃金について使用者の一方的な減額を肯定するに等しい結果を招くのであって、このような就業規則の変更は、たとえ使用者に経営不振等の事情があるにしても、前記労働基準法の趣旨に照し、とうてい合理的なものとみることはできない。右就業規則の変更は、少くとも変更前より雇用されていた労働者に対しては、その同意がない以上、変更の効力が及ばないものと解するのが相当である。
 (中 略)
 被上告人は右変更後の新規定の適用を拒否することができるものといわなければならない。