全 情 報

ID番号 01542
事件名 仮処分異議事件
いわゆる事件名 広島厚生事業協会事件
争点
事案概要  暴力行為等処罰に関する法律違反で起訴されたことを理由とする休職処分につき、右処分を新たに定めた就業規則の規定が遡及適用しうるか否かについて争われた事例。(否定)
参照法条 労働基準法89条,
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の周知
裁判年月日 1963年1月28日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和36年 (モ) 65 
裁判結果
出典 労働民例集14巻1号1頁
審級関係
評釈論文
判決理由  四、次に申請人Xを除くその余の申請人らに対する休職処分の効力について検討する。
 まず改正就業規則が改正の効力を生ずる時期の点であるが、労働基準法は就業規則の制定ないし改正の手続について(1)労働組合又は労働者の意見を聴くこと、(2)行政官庁に届出ること、(3)労働者に周知させることを規定している。ところで当該就業規則が効力を生ずるためには、それが新たに個々の労働契約の内容となるものである関係上、何らかの方法で公にされ、労働者に周知せしめる機会を与えられることを必要とすると解すべきところ、先に疏明された如く本件の改正手続中労働基準法の要求する右手続のなされたのはいずれも昭和三五年一一月二五日以降のことであり(組合に対する照会も回答期限は一一月三〇日である)、またBの掲示場に掲示されたのも一一月三〇日であることからすると、少くとも本件改正就業規則の施行日と定められた同年一一月二五日には未だ改正の効力は生じていないものといわねばならない。
 (中 略)
 とすれば、同年一一月二五日に刑事々件で起訴された者に対し、右改正規則を適用することは効力を遡及させてはじめてなしうることである。そして、休職者は、その俸給が月額の半分しか支給されないことになるから、休職処分が被処分者に不利益なものであることは明らかである。ところで、かように被処分者に不利益を与える規則を一方的に遡及適用することは許されないと解すべきであるから、本件改正就業規則による休職処分は不適法であって効力を生じていないものというべきである。この点につき、被申立人は仮に本件改正が一一月三〇日以降に効力が生ずるものであるとしても、前記申立人らに対する起訴の効力は本件休職処分の行われた同年一二月一三日にも持続しているのであるから、その効力を遡及させなくても処分は可能である旨主張するが、一般に刑罰法令の効力不遡及或いは一方に不利益な法令、規則の効力不遡及の原則とは、当該法令の制定ないし改正以前においては一方に不利益をもたらさなかった事実を、事後において法令を制定ないし改正した上、これを捉えて不利益を加えることを禁止する原則をいうのであって、本件の場合もこの原則があてはまると解すべく、同年一二月一三日においても右申立人らに対する起訴の効力が存続していたことは明らかであるが、それはあくまで就業規則改正前になされた起訴の効力なのであるから、被申請人の見解は採用できない。