全 情 報

ID番号 01759
事件名 仮処分控訴事件
いわゆる事件名 丸住製紙事件
争点
事案概要  過去に譴責、減給の各処分を受けた従業員(甲)と会社上司ないしその子息に対する暴行等で罰金刑に処された従業員ら(乙、丙)が、就業規則所定の懲戒事由にあたるとして懲戒解雇されたのに対し、そうした事情はなく解雇は無効であるとして地位保全等求めた仮処分申請事件の控訴審。(甲の申請のみ認容)
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 始末書不提出
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行
裁判年月日 1971年2月25日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 昭和39年 (ネ) 305 
昭和45年 (ネ) 7 
裁判結果
出典 労働民例集22巻1号87頁
審級関係 一審/05400/松山地西条支/昭39.10.28/昭和38年(ヨ)47号
評釈論文 松田保彦・ジュリスト499号135頁/林廸広・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕92頁
判決理由  〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―始末書不提出〕
 控訴代理人は、始末書の提出命令も業務上の指示命令に該当する旨主張する。しかし、始末書の提出命令は、懲戒処分を実施するために発せられる命令であって、労働者が雇傭契約に基づき使用者の指揮監督に従い労務を提供する場において発せられる命令ではないのである。一般に、就業規則の懲戒規定なるものは、労働者が使用者の指揮命令に従い労務を提供する場における秩序違反行為について規定するのが本則であると解せられるばかりでなく、近代的雇傭契約のもとでは労働者の義務は労務提供義務に尽き、労働者は何ら使用者から身分的、人格的支配を受けるものではないこと、現在の法制度のもとでは個人の意思の自由は最大限に尊重せられるべきであり、始末書の提出の強制は右の法理念に反することを考慮すれば、始末書の提出命令は業務上の指示命令(懲戒処分を発動する要件となるべき業務上の指示命令)に該当しないものと解するのが相当である。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―違法争議行為・組合活動〕
 争議中であつても、暴力の行使は厳に慎しむべきであるこというまでもないばかりでなく、前認定の事実関係によれば、被控訴人Y1の暴行は、積極的主動的なものと認められ、その情は決して軽くない。同被控訴人に対する刑事裁判の刑は、罰金四千円であり、刑事事件としては必らずしも重い刑ではないが、しかし、刑事裁判における刑の軽重はただちに経営秩序に対する違反の度合を示すものではない。
 控訴会社の就業規則第八二条第二〇号は「刑法その他の法令に規定する犯罪に該当する行為のあった者」と規定するが、就業規則の本旨よりみて、その趣旨は、形式上刑法その他の法令に規定する犯罪に該当する行為があったにとどまらず、実質上企業秩序の維持と生産性の向上のために企業内より排除するもやむを得ない程度の悪質重大な情状の存する者を指すと解せられるが、前記認定の事実関係よりみて、被控訴人Y1は右規定に該当するものと解せられる。
 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務外非行〕
 同被控訴人は右暴行の罪により刑事裁判に付せられ、昭和三七年一二月三日松山地方裁判所西条支部において罰金二千円に処せられ、この裁判は控訴の申立なく確定した。
 (中 略)
 その父親が会社側の者であるという理由でその子供に暴力を揮う行為は、父親に対する暴行と同様に評価することができ、ひいては企業秩序の紊乱行為を構成することは明らかである。
 (中 略)
 しかし、本件のような事件については、何よりもまず、会社内の職員ないしその家族に与える一般的な影響が重視されるべきであり、本人が反省の意を表明するとか被害者が宥恕するとかの特段の事情がない限り、厳しく責任を問われるのもやむを得ないところである。
 してみれば、被控訴人Y2は、就業規則第八二条第二〇号の「刑法その他の法令に規定する犯罪に該当する行為のあった者」に該当するものといわなくてはならない。