全 情 報

ID番号 01768
事件名 地位保全仮処分申請控訴事件
いわゆる事件名 三菱製紙事件
争点
事案概要  会社の考課査定をやゆ・ひぼうする内容の文書を組合機関誌に署名入りで掲載したことおよびその内容の真実性に固執して改めなかったことを理由として懲戒解雇された労働者がその効力を争った事例。(労働者勝訴)
参照法条 民法1条3項
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
裁判年月日 1972年4月27日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ネ) 2579 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報674号102頁
審級関係 一審/04315/東京地/昭43.11. 7/昭和40年(ヨ)2234号
評釈論文
判決理由  被控訴人の右一連の行為は、同人の所属課長がその会社の業務として行う人事考課業務を妨げたものというべきであって、企業の機構上の規律にふれ、まさに労働協約第五四条第九号、就業規則第八三条第九号の「故意に工場の秩序を乱す行為」に該当するものとすることは否定できない。
 しかし右引用の原判決が被控訴人の右行為について情状として掲げるところ、殊に前記「労郷」の記事中「課長の話から大体会社の方針がわかるようである。会社のシメつけは今後さらに強まり、八戸のための人減らしは、組合がどう考えようと既定の事実として強行する。そのため邪魔者は徹底的に差別し、排除あるいは潰滅しようというのであろう。またAではそれをやっても反撃をうけないと考えてるに違いない。だがいまAがいかに会社に忠実だと考えようとも、忍耐には限度がある。会社の非道な政策は必らず破たんする。」とある部分は、(中 略)。
 それ自体一組合員として当時の状況下にある他の組合員に対する組合意識の高揚と団結の必要をうたったものとも考えられる。また被控訴人の前記投稿の組合員に対し影響するところは本人の意図はともあれ結果的にはほとんど消極であったことは原判決の認定するとおりであり、これがためB抄紙課長の人事考課の権威が事実上減殺され、その威信が回復すべからざるほどに失墜し了ったとすべき疎明はない。しかも事の発端は組合機関紙による署名入りの言論に出たものであることも考慮に値すべきことである。その上被控訴人はいまだ一度も控訴人により懲戒処分を受けたことがなく、会社の懲戒処分にはいくつかの段階があり、懲戒解雇はその最も重いものであることを考えるならば、控訴人としても被控訴人の前記行為をその日頃の行状とあわせ評価するとしても、今暫く被控訴人の後爾の行動を観察し、その上でなお被控訴人に就業規律の要求に反しいささかも改善の成果がみられない場合において懲戒解雇処分の措置にいたってもおそくはないと考えられることをあわせると、控訴人の本件懲戒解雇はその行為に対する制裁としての均衡を失し重きにすぎる処分であるといわざるをえない。その限度で右処分は懲戒権の濫用としてその効力を否定せられるべきものである。